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第23話

「生意気だなぁ。生意気な後輩には世の中の上下関係をしっかり教えてやらないとな」 「は……?何を言って……」 郷田が少し興奮気味に健人の方へにじり寄る。寄られた分健人が少し後退り、距離は一定に保たれる。 ──しかし。 「っ、うわぁっ!」 突然郷田が健人へタックルを仕掛けた。 格闘技の経験なんて体育で柔道を少し習ったくらいで殆ど無いに等しい。 健人はとっさに受け身を取ることも出来ず、勢いよくアスファルトの地面に頭を打ちつけた。 「バカにしやがって!俺にかなう筈ないだろう!」 頭がくらくらする。目の前が回っているようだった。 健人は自分がこれから何をされるのかを想像し、郷田から逃れようともがくが、動けば動くほど身体が締め付けられていく。 「筑波、俺は最後に思い出がほしいんだ。なぁ、プロレスごっこしようか。気持ちいいプロレスがあるのは知ってるか?」 郷田が何を言っているのか理解できなかった。しかし危機が迫っているということは理解できる。 がっちり体を押さえ込まれた挙げ句、べろんと耳を舐められて、たまらず健人は悲鳴を上げた。 「ひぃっ……!やだあっ、やめろっ、やめっ……、助けてっ……」 「誰も来ないよ筑波君。今日の屋上は給水塔の外壁がペンキの塗りたてで立ち入り禁止だったんだ。侵入禁止のテープは筑波君が通りにくいかと思って外してあげたんだけどね」 ネクタイに郷田の指がかかり、片手で器用にしゅるっと引き抜かれた。 ──無理だ! 殴られるのかそれともプロレスの技をかけられるのか、何にしても無事では済まないであろう。 本気で身の危険を感じた健人は、銀髪の1年生を頼る他なかった。 「は、原田っ、原田宗太っ!!」 藁にも縋る思いで原田を呼ぶ。 恐怖で声は裏返り声量も少ない。 いざという時に声が出ないなんて……! 健人の声は宗太に届いているのだろうか。 「やだ!やめろ!」と震えながらの抵抗する声を上げながら、来てくれ、来てくれ!と胸の中で叫び続ける。 「綺麗な肌だな。触ってみたかったんだ。……痛ぅっ、だ、誰だ!?」 不意に健人を照らしていた太陽が陰り、上に乗る郷田が苦痛の声を上げる。 「プロレスごっこ?小学生ですか先輩」 「ぐぅ……っ」 健人が見上げると、宗太がいつの間にか郷田の腕を取り後ろ手に捻り上げていた。 その表情はうっすらと笑っているようにも見える。 綺麗な顔でその表情は怖い。 ─わ、笑ってる!?サイコパスみたいな不良なのか!? 反対に郷田の顔が痛みで歪む。 健人は助かってほっとしたと同時に宗太が見た目だけじゃない筋金入りの不良だと認識し困惑した。 ─助かったけど、この後どうすれば……。和也のアホーッ! 「レスリング部の部長ともあろう人が後輩を屋上で襲う変態だとでもバラされたくなければ、今すぐここから消えろ。二度とこの人に手ぇ出すな」 健人の上から郷田の重みがふっと消え、ベ シャリと嫌な音を立てて郷田が倒れた。宗太が郷田の胸倉を掴み地面に叩きつけたの だ。 「ほら」 そう言って差し伸べられた手は健人へのもので、健人はその手をとっていいものか迷った。 宗太はなかなか手を掴まない事に痺れを切らし健人の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせた。 「細。先輩鍛えた方がいいんじゃねぇの」 「……」 言われなくてもそんなことは分かっている。元々筋肉が付きにくい体質なのか運動しても男らしい身体つきにならない。本人が一番よく分かっているだけに、言われると余計に悔しい。 成長期はこれからだし、と心で反論した。 「いたっ……」 立ち上がった瞬間地面にぶつけた後頭部にズキッと痛みが走り思わず手で押さえた。

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