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Lv.8原田宗太
蹴られた脇腹はズキズキと痛むが沸々と沸き上がるように血が騒ぐ。
平和ボケした毎日を過ごしすぎて、身体が少し鈍っているか?
ケンカの相手としてこの郷田は遜色ない。多少無茶したところで大怪我を負うようなタマじゃなさそうだ。
宗太の顔が凶悪に微笑む。
寝ても覚めてもケンカばかり。
中学の頃こそやんちゃな日々を送っていたものの、それはそれで宗太の気質に合っていて楽しかった。
今はこんな平和なお坊ちゃま学園に押し込まれるように入学させられ、つまらない毎日だ。
自分の鬱憤を晴らす場所と言えばlostworldだけ。
ただ一つ不満を言えばlostworldでは肉体的なストレスを解放出来ない。だからこそ、今この瞬間を待っていたのだと思える。
「なんだ、姫を後ろに隠してナイト気取りか」
「姫?」
郷田の言葉に宗太は首を傾げる。
「人のことひ、姫とか言ってんじゃねーよっ!……気持ち悪いっ」
宗太の後ろから可愛い顔した健人がひょこっと顔を出し、郷田に向かって叫ぶ。
ああ、この人が姫ね。と宗太は一人納得した。
「おら、余所見してるとその綺麗な顔がつぶれるぞっ!」
隙をついて郷田が拳を繰り出した。
宗太は避けることなくその拳を片手で受け止め、すぐさま正面から郷田の腹に蹴りを入れる。郷田は後方へ吹っ飛んだ。
「思ったより大したことねーな、レスリング部部長」
郷田は腹を抱えてうずくまる。
郷田は起きあがることなく、昼休み終了の チャイムが鳴った。
まるで試合終了を告げるゴングの音みたいだった。
「拍子抜けだな、つまんねぇ」
「う、ぐ……っ」
宗太はトドメをさすかのように、もう一発蹴りを入れ、呆気にとられている健人の手を引き、屋上を出た。
これ以上追われないよう念の為、内側からドアの鍵をかけた。
これで取り敢えず一安心だ。
ふと、健人の手を握りっぱなしだったことに気付いた。
「あんたは手も小さいな。女みてぇ」
ぴくんと握っていた健人の手が跳ねた。
健人が女という単語に過剰反応したのが解る。
見ると健人は顔を赤くして俯いていた。
よくよくみると、本当に可愛らしい顔立ちで口の悪さだけを除けば郷田の気持ちも少しは解らなくない。
何となく悪戯心が働いて、宗太は握っていた手の親指で健人の指や手の甲を軽く擦る。
どんな反応を示すのだろう。
本当にちょっとした悪戯のつもりだった。
健人はピク、ピクリと手を震わせると黙って宗太を見上げた。
風呂上がりのようなピンクの頬に潤んだ大きな黒い瞳、うっすら開いた赤い唇からピンクの舌が見えた。
有り得ないことに、ドキンと心臓が脈打って、思わず宗太は目を逸らした。
もちろん健人にそんな気がないのはわかっている。
自分にもそんな趣味はない。
なかったはずだ。
しかし健人を見ていると嫌でも解ってしまう。
周りの男達が勝手に惑わされているのだ
宗太は気付いてしまった。健人の魅力に。
「お礼……タマゴサンドでいい?」
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