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Lv.11筑波健人

lostworldは健人にとって唯一の癒やしだったのに、ものすごく嫌な事が起きた。 健人はいつも学校での休み時間、和也と他愛ない事を話ながら頭の片隅でlostworldの世界へ思いを馳せる。 だが今日は、あの出来事だけが頭の中でぐるぐると渦を巻き、道端に捨てられたガムでも踏んだかのように頭からべったりと離れない。 知り合った女性プレイヤーに脅しともとれる忠告をされた。 ─ハランにこれ以上纏わりついたらアンタのことセクハラプレイヤーだって訴えてやるからね セクハラめいたことって何だろう?と身に覚えのないことだけに、考えても考えても何のことだか検討がつかない。 けれど、自分が嫌われているということ、ミレーユがものすごく横暴な女だということがわかった。 ゲームの中は女だが、現実の性別が不明なところもこんな事が起きると気持ち悪い。 はぁ……と健人は溜め息を吐いた。 「あーごめん、俺ノロケ過ぎ?」 目の前で和也がヘラヘラしている。 和也の言葉で、あぁ今俺はノロケを聞かせれていたのか……と気付いた。 「や、別にいいんじゃないの。彼女かぁ。優しい彼女とか、いいなぁ」 ミレーユが健人のそこかしこに引っ掛かり、心の底からそう思う。 女の子は優しくなくちゃな。 「だよなぁ!健人も彼女作ればいいんじゃないか。な!女はいいぞ」 「欲しくても出来ない時はどうすりゃいいんだよ……」 和也は健人の顔を凝視する。 「まぁ確かに。自分より可愛い彼氏とか微妙かな」 「うぅ、俺今お前をグーパンチしたい気分」 「暴力反対!あ、そういやアレ、あの後アイツどうした?」 「あ……!!」 和也の言うアイツとは、紛れもなく原田宗太の事だった。 レスリング部の郷田を諦めさせるため、急遽和也の代わりに当てがわれた後輩だ。 ただ、宗太はどこからどう見ても筋金入りの不良男子だった。 健人はキスをされたあの時の、唇の感触を思いだし、思わず片手で口元を覆った。 顔も体もかあっと熱くなる。 「どうした、真っ赤だぞ。え、何その顔。友情以外の何かが芽生えそう。ちょっとエロいんですけどぉ」 「……」 健人は反論もせず目を泳がせた。 まさか、と和也は勘ぐりを口にした。 「もしかして、ヤられちゃった……とか?」 だとしたら、和也にも責任が大いにある。 「ヤられ……って、んなわけあるか!!」 ある意味ヤられたことに違いないが、そっちじゃない。 健人はべちんと和也の頭を叩く。 和也は違ったかとホッと安堵の溜息を吐いた。 あんな衝撃的な事があったのに、ミレーユで頭が一杯だったなんて。 どれだけゲームにのめり込んでいるのだろう。 そして入れ替わりに今度は宗太のことで頭が一杯になった。 「今度から俺を呼べって勝手にスマホを取り上げられて、無理矢理連絡先を交換させられたんだ。その上あんな……キ、キ、キ……」 和也は健人の顔を「き?」と言いながら覗き込む。 キスしたなんて、言えない……。 健人は苦し紛れに声を発する。 「き、今日の昼飯なに食べる?」 「あぁ昼飯の話?そうだなぁ。購買でパン買ってコーヒー牛乳かな」 和也がへらっと笑いながら言うのを見て健人はイラッとした。 半分はこいつのせいだ!と。

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