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Lv.17ケント
最近またラブレターが増えた。
宗太といる時間がなくなったからなのだろう。
一緒に過ごした間はラブレターだの告白だのそんな事に悩まされる事は本当になくなり、言い方は悪いが宗太は体のいい番犬みたいな存在だった。
そんな宗太の気配が消えた途端にこれだ。
自分の知らないところで自分が観察されているようで本当に気持ちが悪い。
健人は溜め息混じりにPCを立ち上げた。
lostworldのアイコンをクリックしゲームの 起動を待つ。
その間、学校帰りに下駄箱から回収した手紙を開封した。
どれもこれも好きですとか、ファンですとか一方的な告白の内容ばかりだ。
その中の手紙の一つに健人は目を留めた。
「勉強を教えてほしい……?明日の放課後、図書室で待ってます。……何だこれ。俺が秀才だと勘違いしてる奴がいるってこと?それとも手紙突っ込む場所を間違えたとか?」
健人宛で間違いはないのだろうかという、思わず首を傾げてしまう内容だった。
─まぁいい。
明日和也に相談しようとその手紙をカバンに戻した。
PCに視線を戻しlostworldへログインする。
***************
欲しい装備品があってハランに教えてもらった釣りでの金策に夢中になっていた健人は港にいた。
周囲に見知った冒険者はおらず、このまま船に乗ってただ黙々と釣りを続けなければならないのがちょっと寂しい。
「それもこれもマジックエイドパンツの為!」
マジックエイドパンツとは、戦闘中に消費したマジックポイントを少しずつ無条件に回復させてくれる魔導士系のジョブには有り難い装備品だ。
船は船着き場へとすぐにやってきた。
木造の余計な装飾などはないシンプルな造りの船だ。
ケントは乗船券を提示して乗り込む。
その乗船券は無期限の特別な券で、前回一緒に釣りをした時にハランから貰った物だった。
船に乗るには乗船券が必須。
本来ならばもっと熟練した冒険者が持つ物なのだろうけど。
ハランには後で会ったら改めて礼を言わなくては。
乗船して間もなく不穏な空気が辺りに立ち込め、ケントは船の縁から垂らしたばかりの釣糸を巻き上げた。
「なに……?」
健人は目を凝らす。
エメラルドグリーンに輝く海が濁りだして、みるみるうちに船の周辺が霧で覆われた。
「まさか希少モンスターでも出るのかな……うわぁこのタイミングで……?」
ケントは足早に船上の端に積み上げられている木箱の脇に身を寄せる。
他の冒険者たちも同じ事を考えているのだろう。
蜘蛛の子を散らしたように甲板の上から皆姿を消した。
「あの……これって何か良くないことが起きる前触れとか、ですか?」
ケントは近くにいた冒険者に声を掛けてこの霧について聞いてみた。
「あぁ。この船に乗ってると時々出るんだ」
「出る?……お化けとか?」
自分で発した台詞に背筋がぞわっと震えそうになった。
「そうだな。似たようなもんかもな」
「え……」
ケントがピシッと凍りついたのを見て、冒険者はふっと笑った。
「海賊だよ、海賊」
「海賊!?」
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