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第51話
海賊なんて見たことがない。
恐らく自分では太刀打ち出来ない相手だろう。
けれど怖いもの見たさで興味が湧く。
「希少モンスターと言えばわかるかな?ギルドなんかのチーム単位で挑まなければ簡単には勝てない相手だよ。だからこうして身を隠すしかないんだけど、見つかれば一撃でやられてホームに強制送還さ」
「死ぬのは確実ってことなんですね……」
「そういうことだな。まぁここにいる皆一緒だから、そんなに気落ちしないで」
「はい。俺、怖いけど海賊見てみたい」
ケントの言葉に冒険者は、はははと笑う。
不謹慎だが、やはりわくわくする。
自分がどうなろうが海賊との遭遇が滅多にないことなのだと知ってしまったからだ。できればハランと一緒が良かった。
ハランは海賊を見たことがあるだろうか。
海賊と戦ったことはあるだろうか。
─あれ……。
どうしてこんなにもハランのことばかり頭に思い描いてしまうのだろう。
冷静になって考えると、最近の自分は少しハランに依存してしまっているのかもしれない。
「よくないな、こういうの。でもハランは面倒見いいからつい甘えたくなるんだよなぁ」
ぶつぶつ独り言を言うケントは眼前の光景に目を見張った。
「……か、海賊船だ!!すごいっ!!」
禍々しい紫の渦巻く靄に包まれた、見るからにぼろで今にも崩れ落ちそうな船体がこちらへ近付き、ぼろ布をあばら骨に引っ掻けた人骨の兵士達が船に乗り移る。
物陰に隠れていた冒険者達は次々と海賊兵に見つかり始め、戦いを余儀なくされた。
他の冒険者達も仲間を助けるため甲板に飛び出すが、一撃、二撃攻撃を食らいあっという間に倒されてその場から消えてゆく。
ケントは戦闘中の冒険者の回復に徹したが、やがてケントにも攻撃の刃が向けられ、一撃で戦闘不能に陥った。
ケントの体が砂のように消えていく。
次に気付いた時は乗船する前の港だった。
ケントはゆっくりと瞼を開ける。
地面には黒い皮のブーツが見えた。
視線を上へとずらしていくと、エストーニア王国の象徴である赤い軍服を着たシルバーの長髪でハランだとわかった。
「ハラン?……海賊にやられちゃった」
「回復するからちょっと待ってろ。─キュア!」
ハランはその場で回復の魔法を唱えた。
白い光に包まれてケントはふわりと立ち上がる。
「ありがとう。ハランはどうしてここに?魚釣り?」
ケントはハランに向き合う。
身長差が結構あるためケントはハランを見上げている。
─そういえば、原田もこれくらい背が高かった。
ふと、宗太のことを思い出した。
「いや、たまたま通りかかっただけなんだけど。まさかケントが倒れてるとは思わなかった。ケントはまだ釣りするのか」
「うん、欲しい装備があってさ。ところでハランも一緒にどう?あ、忙しいかな?もし暇だったら……でいいんだけど」
ハランと話したい。漠然とそう思った。
だがハランはギルドwantedのリーダーだ。ケントの知らない所でハランは他の仲間達に必要とされている。
それがケントを遠慮がちにさせるのだった。
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