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Lv.19筑波健人

「なぁ和也」 「んー?」 サッカーの情報誌をパラパラと捲りながら和也が返事する。 健人は昨日下駄箱から回収したラブレターとは到底思えない、変な手紙を和也の読んでいる雑誌の上にポンと置いた。 「これ、どう思う」 「んんん?」 和也は便箋を開くと首を傾げた。 内容は勉強を教えて欲しいという旨の、おかしな手紙だ。 「あれ。健人って頭良かったっけ……?」 「わかってるよ、俺はバカだよ。改めてそんなこと聞かなくてもいいだろ」 「そうだよな。バカな健人に勉強を教えろというこの違和感。間違いない、こいつはただの変態だ!で、呼び出しには応じるの?」 「まぁ一応。早期解決したいし。なぁ放課後付き合って」 健人のお願い事は計算されたかのように子犬然としている。 きれいな黒い目が上目遣いでうるうると和也を見詰めた。 しかし和也はくっと何かを堪えるようにして健人から視線を背けた。 「悪い。今日は部活のミーティングがあって遅れらんねえんだわ。顧問がうるさくてさぁ。ほんとごめん!」 「えぇ……使えないヤツだな」 「な……!ひどい」 和也はしくしくと泣き真似のポーズを取る。 それ以上に健人は項垂れる。 あてにしていた和也が来れないとわかり健人は少なからずショックを受けていた。 「そんな泣きそうな顔すんなよ」 和也は健人の顔を下から覗き込み、頭に手をポンと置く。 「だって」 「イヤなのはわかるけど、その手紙無視すんのもイヤなんだろ。だったら行くしかないよな。大体図書室は放課後だって誰かしら使用してると思うぞ。人目につくところで、レスリング部の部長みたいにそこまで危険なことはないと思うけど」 「他人事だからそう言えるんだ」 和也は健人を見て溜め息を吐いた。 「代役なら立てられる」 「代役?」 「わかった。今日の昼飯は屋上な」 健人は和也が何を意図してそう言ったのか、すぐ理解した。 あの不良1年生達に頼ろうとしているのだ。 「でも和也、和也にキスしたあいつのことはもういいのかよ」 「ああ、あのバ神戸ね。そいつはちょっと置いておく。健人が一人で原田に連絡取れるならそれが俺にとってはベストだけど」 和也の顔がいつもより怖いのは気のせいだろうか。 和也が神戸にキスされた翌日から和也は「ホモ怖い」と屋上での昼食を取り止めてしまった。 急に足が途絶えれば向こうから何か謝罪のアプローチでもあるんじゃないかと考えたがそれもない。 じゃあもう行かなくてもいいんじゃないか。そんな結論に至ってしまい屋上にはそれ以来一度も行っていない。 和也も宗太達とつるむのなんて本当は嫌なのだろう。 ─どうしよう……。 和也の怖い顔は神戸のせいだとわかっている。 だからといって自分に神戸を止める力なんてない。 だけど今までだってあの一年に無理矢理どうこうされたことなどないし、郷田に襲われた時に助けてくれたのは宗太だ。 メッセージだけ送ってみようか……。 健人はスマホを手にとり、宗太宛にメッセージを打ち始めた。 『今日の昼、屋上にいる?』 内容はこれだけだ。 屋上にいることがわかるだけでいいと思った。宗太に直接話したかった。

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