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Lv.23ハラン

lostworldの世界でハランは今まで、共に行動する度に心を許し自分の領域に他人を受け入れてきた。 けれどそうして心を許すのは、現実の世界とは違って、生身の自分に危険が及ぶことなどないからだ。 健人はどうしてこうもガードが緩いのだろう。 今日は黒川の件があった。 健人に宛てた手紙が同じクラスの黒川からだったことに驚き、黒い噂の絶えない奴だからこそ警戒を強めなければいけなかった。 それなのに黒川の外見と上っ面だけの人当たりの良さに絆され、健人がガードを緩め始めているのがわかってしまった。 だから尚更、宗太にとっては気に入らない話だった。 健人は下心というものをわかっていない。 それにしてもケントが健人だと知った時、もちろん驚愕し、信じられない気持ちが強かった。 しかし健人は間違いなくケントなのだと確信した。 こんなことが現実に起こるのならば、自分と健人の出会いはきっと運命だ。 ロマンチストでも何でもない現実主義の自分がそう思うのだから間違いない。 宗太の心はとっくに男女の垣根を超えて健人に傾いている。 そんな自分に、突然会いたいだなんて。 そんな言葉は恋人か遠く離れた友人にでもかける言葉だろう。 ケントの場合、ここはゲームの世界だから後者かもしれないが。 ケントからのメッセージは黒川のことだった。報告したいことは大方検討がついた。 それを知っていて感じの良い返事ができるほど宗太は大人じゃない。 けれど素っ気ない返事を返し続けるハランにケントは会いたいと言った。 撥ね付けているのに寄ってくる。 そこにどんな意味があるのかケントの心はわからないけれど、必要とされているのだと自惚れてしまう。 それがハランにどんな気持ちを抱かせるのか、ケントは気付いていないのだろう。 会いたい、そう言われてすぐに、ハランは軌跡の石でウィンディア共和国へワープした。 城下町の入り口から少し進んだ所で、小柄な後ろ姿を見付けて何故かほっと安心し、歩み寄って後ろから声を掛けたのだ。 *************** 「ケント、後ろ」 「え、後ろ?あ……!ハラン!!」 ケントはくるりと振り返る。大きな黒い目がハランを捉えると、ケントは言葉もなくハランの胸に飛び込んだ。 ケントは胸に頬を摺り寄せる。 そんなことをケントにされるのは初めてのことだった。 たまらずハランもケントを抱きしめる。 「ケント、どうした」 「あ……、急に抱き付いてごめん!ハラン、何か素っ気ないから……もしかして俺、嫌われたのかと思った」 ケントはハランの腕の中からハランを見上げる。 可愛い。黒川のことを問いただしてやりたいところだったが、それはこっちですべきことではないと踏みとどまる。 「なんでだよ。んなわけねぇだろ。色々取り込み中だった」 取り込み中は嘘だけどと心で返し、ケントを抱く腕に力を籠める。 人目も憚らず、2人は暫く抱き合ったままだった。 傍から見れば少し異様な光景かもしれないが、ケントが小柄でハランの腕にすっぽりと収まっているので、よく見なければハランが誰を抱きしめているかなど、誰も気に留めたりしないだろう。 例えそれがケントだと知られたところでハランには何の問題もない。 「今日はギルド活動ないの?」 「ない。明日はあるけどな」 「そっか。じゃあ今日は遊べる?」 「いいよ。何かやりたいことある?」 「イザベラの洞窟の地図取りに行きたいんだ」 「おう。すぐ行こうぜ」 「うん」 ケントはハランの腕の中で微笑みながら頷いた。

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