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第66話
翌日、勉強会で訪れた黒川の家の前に昼休みを共に過ごす面子が集まった。
健人、宗太、和也に神戸。
4人は唖然としながら黒川邸を見上げている。
「すっげーな黒川んち」
「これは……ググれば出て来るわけだな」
「スゴ過ぎる」
「……うん」
黒川邸の場所は教えてもらった健人しか知らない筈だった。
だが、黒川と言えば一部上場している製薬会社だ。
そこの社長宅ともなれば近隣住民だって知っている。調べればすぐにわかった。
一見美術館かと見間違えしてしまいそうな外観の黒川邸。
高い塀と木々に囲まれ、門の入り口からは建物の一部しか見えていない。
恐ろしく敷地面積が広い。
ここまで広い屋敷を見るのは宗太も健人も初めてだった。
「インターホン……押していいのかな」
何となく躊躇ってしまうのは、間違いなくこの立派過ぎる屋敷のせいだ。
「押すためにあるんだよ、インターホンは」
和也が健人に押すよう促す。健人はちらりと宗太を見た。
「怖がらなくても大丈夫だ、押せ」
宗太も後押しする。
健人は「べ、別に怖がってないしっ」と言いながら指を動かした。
健人がボタンを押して数秒、男性の声がスピーカーから聞こえてきた。
「はい。どちら様でしょう」
「あ、えっと、黒川君と同じ学校の者で筑波といいます」
「わかりました。少々お待ちください」
続いて黒川本人の声が流れる。
「筑波先輩たくさん連れてきましたね。まぁいいや。今門開けますね。どうぞ」
プツッとスピーカーが切れる音がして、重厚感のある黒い門が自動で横にゆっくりスライドしていく。
開放された門の先には綺麗な砂利道があって建物へと続いていた。
自動で開いた門に皆一様に顔を見合わせた。
「お、お邪魔します……。本当にお邪魔していいのかな」
健人が小さく呟く。
「何だよ。勉強しにきただけだろ。それとも何かされるかもしれねぇって、びびってんのか。だったら始めからこんな約束しなきゃよかったな」
「ごもっとも!」
宗太の尤もな言葉に和也が合いの手を入れる。
健人は宗太を見てキッと眦をつり上げた。
「原田は勘違いしてる。黒川は俺の事を恋愛対象として好きなわけじゃなくて、年上として慕ってくれてんだって。それに今日だって真面目に勉強するつもりだから、そっちこそ邪魔する気なら帰れよな」
「……」
宗太は無言で神戸と顔を見合わせた。わかってないのは健人の方だろうと。
─それにしたって後ろ姿だけみたら、性別不明だな。
宗太は華奢な健人の身体を眺める。白のロンTにブルーのロングカーディガン。細身のジーンズにショートブーツ。薄い肩と細い腰。痩せてる女みたいだと宗太は思った。
あの華奢な身体に触りたい雄の即物的な欲求。それは前触れもなく唐突に訪れる。
「……くそ」
後ろからぎゅっと抱き締めて舐め回したいと思ってしまった。
「おい、そんな顔で健人を見るなよ。俺との約束忘れたわけじゃないだろうな」
「うるせぇ、わかってるよ」
和也に手を出すなと釘を刺されてしまった。
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