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第69話

「おい、ハッキリと断れバカ」 銀髪の髪が揺れて、ゲームをしていた宗太の顔がこっちを向く。 「お、お前、先輩に向かってバカとか言うなよな」 「バカはバカだろ。そうやって曖昧な返事してっから付け込まれんだよ」 「確かに」 「何だよ和也まで……」 いつの間にか自分が責められる立場になっている。 だが、黒川に告白された訳ではない。 断るなんて自意識過剰だ。 ちらりと黒川を見ると、やれやれといった顔をしている。 健人は何だか申し訳ない気持ちになってしまった。 宗太と神戸が一緒だったからなのか勉強は思うように捗らず、ぎこちない空気が気まずくて、勉強会は早々と昼頃にお開きとなった。 黒川の屋敷から出た4人は歩きながら帰路について駅を目指す。 「あぁつまんねえ。暴れられんのかと思って楽しみにしてたのによぉ」 「暴力反対」 神戸と和也がわいわい言いながら歩いている。 健人はこの2人はそんなに仲が悪くもないのかもと思いながら何気なくパンツの尻ポケットに手をやると、定位置であるスマホがポケットの中に入っていない。 駅の手前でスマホを忘れた事に気が付いた。 「俺忘れ物!ちょっと取ってくる。皆帰ってていいよ。またな!」 くるっと踵を返して、健人は小走りで道を戻った。 健人は再び黒川邸を訪れることになった。 今度は臆することなくインターホンを押して中へ入る。 再び開いた門は健人が中に入るとすぐに閉ざされた。 邸の中へ入り黒川の部屋へ向かう。 スマホなんて嫌な忘れ物だ。 別に恥ずかしいものが入っている訳ではないが、家族とのメールやSNSでのやりとりは人に見せるものじゃない。 それ以前に個人情報の詰まった機器でもある。 黒川の部屋のドアをノックする。 「どうぞ」 と聞こえて健人はドアを開けた。 「ごめん、忘れ物した」 「これですよね」 にっこりと、黒川はスマホ片手に微笑んだ。 「そう、それそれ」 黒川に向かって足を進めようとした時、身体の違和感に気が付いた。 皮膚がピリピリと空気の揺れすら感知しているのかのように敏感になり、身体がカッと熱くなった。 視界はゆらゆらと揺れ始め、足下がふらつく。 足がもつれそうになり、掴まるところを探して手を伸ばすと、正面から黒川の手が伸びてきて、健人の手をとり体を支える。 「……っ」 「先輩大丈夫ですか?どうしたんですか」 「わかんない。あれ、俺……どうした…… だろ」 次第に呂律も怪しくなってきて、もしかして突然病気になってしまったのかと慌てた。 しかし、体の異変はそれだけでなかった。 「こっちで少し休んでください」 「……っ」 黒川の手が腰に回って、健人はたまらず腰を捩る。 触れられた場所から次第へと向かって気持ちのいい波が広がっていく。 熱がどんどん下腹の更に下へと集まってきているのがわかった。 部屋の奥にもう一つドアがあり、黒川はそのドアを開ける。 寝室だった。 セミダブルのベッドが一つ、きれいにベッドメイクされた状態で置いてある。

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