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第77話

ぱっと弾かれたように健人が宗太に驚きの顔を向ける。 聞いたことのない言葉に驚いたのだろう。 「い、嫌だ」 小さな口から熱い息と共に吐き出された言葉。 「あー。……今言う事じゃねぇか」 まさかそんなにハッキリと否定されるなんて。 今まで生きてきてこんなに真面目に告白したのが初めてであれば、即刻振られるのも初めてで。 思い返せば自分は言い寄られてきた記憶しかない。 こんな時にどうしていいのかわからずに「くそ」と呟き頭をがしがしと引っ掻いた。 「まぁいい。何度でも言うからな。あんたが落ちるまで」 「……っ」 健人は今まで以上に顔を赤くしてふいっと顔を背けた。 可愛い反応である。十分に脈ありだ。 「で、先輩。一人で出来ないならまた抜いてやろうか?」 意味ありげに健人の腿に手を這わせるとピクンと身体を震わせ、きゅっと小さく背中を丸めた。 同じ男でもこの人だったら体の隅々まで触れて可愛がってやりたい。 そんな欲が見え隠れしていたのか健人は体を丸めてふるふると首を横に振った。 「い、いいっ!そのうち治まる!っていうか、少し治まってきたみたい!あ、そうだ、俺のど乾いたな。水、水もらえる?」 「テンパり過ぎだよ」 「ばーか」と言いながら健人の髪をくしゃっとかき混ぜまた立ち上がる。 今度は引き留められなかった。 宗太に告白されたことで体の熱から意識を多少削ぐ事ができたのか、黒川邸にいた時から比べると健人の様子は大分落ち着いたように見える。 宗太はそれを見てほっと胸を撫で下ろした。 水分を多く取ればその分薬の効果も薄まるだろうと、キッチンの冷蔵庫からペッボトルのミネラルウォーターを二本取り出して部屋へ戻る。 健人は宗太の机にあるパソコンに目を向けていた。 「どうした?」 手に持っていたペッボトルを一本健人に渡して床に腰を下ろした。 ベッドの上に座る健人の隣に腰を下ろすのはある意味拷問に近いものがあり、今、自分を抑えるのは結構キツい。 健人は床に座る宗太をチラと見て、「んと……」と少し言い淀み、ようやく口を開いた。 「今日は……ごめん。原田の警告も無視して黒川の家まで行って……。こんなことになるなんて思わなかったんだ。もっとよく考えればよかった。俺が誘いに乗らなきゃこんなことにはならなかったんだよな」 「終わったことだ。気にすんな」 「……うん。あの、俺ね、実は今すごくハマってるゲームがあって。家で大人しくゲー ムでもしてればよかったのかなとか、原田のパソコン眺めてたらそんな風に思った。はは、バカみたいだな俺」 自嘲気味に笑う健人に宗太は目を細める。lostworldの話題がここで出るとは思わなかった。 「意外。先輩ゲームなんかするんだ」 この人がケントだと知っているのは自分だけだ。 そして自分がハランだということを、この人は知らない。 「あぁ。今はテスト前だから封印してるんだけど、それ以外はほぼ毎日インしてて……って、ネットゲームなんだけどさ」 「へぇ。何てゲーム?」 自分がハランだと言ってしまおうか。 本当のことを言ってしまいたい気持ちが波のように押し寄せる。

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