80 / 138
第80話
***************
「ケント」
ケントが振り替えると、そこにはハランがいた。
ハランのシルバーの長髪や、黒い竜騎士の鎧がいつもより一際輝いて見えてケントはハランから目が離せなくなる。
やっぱり格好いい。
「久し振りだなケント。これやるよ」
唐突にハランが手に握ったものをケントの前に差し出した。
何だろうと思いながらそれを受けると、硬い石のような感触があり、手のひらを開いてみれば、それは砂漠のダイヤという宝石だった。
「なにこれ!宝石?」
「砂漠のダイヤって呼ばれてるダイヤなんだがケントに持ってて欲しい。ギルドの狩りでたまたま獲得したんだけど、ミレーユに狙われてんだわ。ケントが持っててくれれば安心できる。頼める?」
「俺、金庫?」
「単純にケントに持っててほしい」
ミレーユの名前が出てギクリとする。
以前脅されたことをどうしても思い出してしまう。
こうして今ハランと会って話しているだけでも、きっとミレーユは許さないだろう。ハランにも何か事情がありそうだ。
ケントはあまり詮索せずにそのダイヤを預かることにした。
「じゃあ俺が預かっておくね」
「助かる。で、ケントはテスト勉強放棄してどうした?」
「えーっと……」
誰かに話を聞かれてしまったら……と、周囲の目が気になって落ち着かない。
「ごめん、ハラン。場所変えてもいい?」
「あぁ、いいけど。どこがいい」
「人のいない所がいいんだけど……って別にハランに変なことしたいわけじゃないよ」
ケントがそう言うと、ハランはぷっと吹き出し笑った。
「変なことってなんだよ。むしろ俺の方がケントに変なことしそうだけどな。もしかして俺といると人目が気になるのか?」
少し迷ってケントは頷いた。
「じゃあそうだな。イジー草原の谷の洞窟は?」
「うん。いいよ」
ハランといると確かに他の冒険者の視線が気になる。
キングに付きまとう駆け出し冒険者。
この世界では寄生していると例えられたりもするが、そんな風に自分が見られていると思うと居たたまれない。
だからハランの提案はベストだと思った。
ケントとハランはすぐに谷の洞窟へ移動した。
「俺の学校月曜からテスト」
「こっちもだ。ケントと一緒だな」
「うん。全然勉強はかどらない」
「おう。一緒だ」
「そっか。ちょっと安心した」
洞窟の中は薄暗く、所々で鍾乳石のような石が暗い道を仄かに青く照らす。
「ケントこっち」
「わ、何ここ」
ハランに案内されたのはメインの通路からの隠し通路を使い辿り着いた場所だった。
秘密事を行うには打ってつけの場所だ。
辺りには特に何があるわけでもないけれど、新米プレイヤーのケントはこんな所があるなんて知らなかった。
確かにここなら誰かに見られる心配もないような気がする。
「ここならいいだろ」
「そうだね」
ケントとハランは隣合って腰を下ろした。
「こんな所まで連れてきてもらって、そこまで大した話題じゃなくて悪いんだけど……」
ともだちにシェアしよう!