隣に座るハランがじっとケントを見詰めている。 話しにくい内容なだけに、話そうとしては躊躇うことを繰り返す。 「どうした？」 ハランは優しくケントを気遣うようにして待ってくれている気がした。 「ごめん、言うね。俺、年下の後輩に告白されたんだ。どうしたらいいだろ……」 健人は思い切って告白した。 「……」 「……」 しかしハランからの返事がない。 意外な告白で呆気にとられたのか、ケントを見詰めるその顔は驚いているようにも呆然としているようにも見える微妙な表情だ。 ケントはハランをちらり、ちらりと確認するように覗き見る。 こんな所まで連れてきてもらって話す内容じゃなかったかもと考え込んでいるとハランがやっと声を発した。 「どうしたら……ってことは、断るか受けるか悩んでるってこと？」 おかしな間はあったが、ハランからのリアクションに健人はほっと胸を撫で下ろす。 「うん……ってかごめん。こんな内容どこででも話せるよな。こんなところにまで連れてきてもらって、手間とらせたかな」 「いや別に。むしろその話に興味がある」 「そっか。……それならよかった」 ケントがぱっとハランに顔を向けると、優しげな眼差しにぶつかって、心臓がドクンと跳ねた。 訳がわからず、ケントは直ぐに前を向き顔を逸らした。 「で、悩んでるって？」 「そう。そうなんだ。その後輩はハランに以前話したことがあると思うんだけど、不良で、美形で。口は悪いけどいつもいいタイミングで俺のこと助けてくれて。総合的に見れば悪い奴じゃないんだけど」 「へぇ。いい奴なんだ。試しに付き合ってみれば？」 まさかハランがこんなことを言うとは思わなかった。 かといって、どんな返事をもらってもすっきりするわけがないということもわかっている。 しかし付き合ってみれば？という他人事のような返事には反論せざるを得なかった。 「は？なんで？男子校だよ？相手は不良でしかも男だよ？そんな簡単にいいよとは言えないって！」 「でもあんたを守ってくれてるんだろ。そいつを利用してやるくらいのつもりで付き合ってみればいいじゃねぇか。それとも……ケントは男子校の姫としてどこぞの誰かの餌食になりたいのか」 「男子校の姫……なんで……」 その呼び名は不本意ではあるが、いつしか健人に付けられた通り名である。 たまたまそう呼ばれたのだろうとは思うがどうしてハランはそんなことを急に？ 「まさか本当に姫なんて呼ばれてんのか」 「え、いや、男だし。姫じゃないけど……陰でそう呼ばれてるのは知ってる……」 「……悪い。失言した」 「別に……いいよ。俺気にしない」 ハランにまでそんな風に思われていたなんて。 もちろん驚いたしショックを受けたのは事実。 けれど、嫌じゃない。 ハランから「姫」と、そう言われるのは嫌じゃなかった。