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第83話
恥ずかしいから立ち上がったのか、嫌だったから立ち上がったのか。
こんなゲームの世界じゃ健人の心中は計り知れない。
「くそ……わかんねぇ」
ケントは動かない。きっとハランに向ける言葉を模索しているのだ。
宗太は更にこの世界でできうる限りのモーションコマンドを駆使し、ケントに自分の思いを伝える。
画面の向こうで、ハランは立ち尽くすケントの前に跪き、ケントに求愛する。
─ハランはケントの前に跪いた。
─ハランはケントにキスをした。
ハランの行動が、チャットログとなって表示される。
『ちょ!恥ずかしいって!』
必死のアピールにやっとケントが言葉を返した。
─だめだ。ちゃんと伝えたい。俺はケントが欲しい。
宗太は迷いなくキーボードを叩いた。
『ケント、さっきの言葉訂正する。試しに付き合えと言ったけど、俺はケントが好きだ。だから付き合いたい。ケントといるのが楽しい。ずっと一緒にいたい。ケントが男でも、好きだ』
「すっげぇみっともねぇな俺……。必死すぎだろ……」
じわりじわりとキーボードを打つ手に汗が滲む。
画面の向こう側にいるケントは、立ったまま僅かににカクカクと微動していた。
健人のコントローラーを操作する手元が震えているのだろうか。
「……やべ、こっちまで恥ずかしくなってきた。カッコわり……」
ケントの動揺が宗太にまで伝わってきて顔が心なしか熱くなった。
『付き合うって……具体的になにするの?』
「あぁ……そりゃそうだ」
宗太は少し考えて返事を返す。
『もっとケントと過ごす時間を増やしたい。それで今まで通り一緒に冒険して、俺はケントの成長をサポートする。で、時々こうしたい』
ハランは立ち上がりケントにハグをした。
ケントはそのまま動かなかった。ハランのハグを受け入れたということかもしれない。
もしかしてケントを攻略できたということだろうか。
『うん。いつも通りに一緒に冒険出来るなら、いいよ』
「まじか」
『ケント、ありがとう』
まさか。こんな簡単にいくなんて。
宗太はパソコン画面を見詰めて緩む口元を両手で覆った。
『それよりリアルの方。不良の後輩どうしよう……』
「そっちかよ……!」
ハランと原田とでは原田のウェイトの方が重いらしい。
嬉しいことではあるがハランの方はそれほど意識されていないことがわかり、宗太はがくっと肩を落とした。
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