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Lv.32筑波健人
「昼飯俺買っといてやるよ。先屋上上がっとけ」
「え、あ、うん。じゃあ焼きそばパンよろしく」
気持ち悪いくらい和也が優しい。
土曜日の一件で自分が乱れた姿を知っているのは宗太だけの筈だと思っていた。
和也は一体どこまで知っているんだろうか。
全てを知っていて同情されてるのだったらどうしよう。死ぬほど恥ずかしい。
それにあの場に居合わせたのは神戸も同じである。だとしたら神戸にも見られていたりして。
そして宗太。黒川邸から連れ出してくれて、何故か告白されて……。
「う゛わああああぁーーーーっっっ!」
健人は屋上へ続く階段を上りながら黒髪をわしゃわしゃとかきむしった。
そこへ後ろから声が掛けられた。
「ハゲるぞ」
「ぶは!こんな可愛い顔でハゲとかマジうける!!」
スタスタと健人を追い越し1段飛ばしで階段を上がって行くのは、宗太と神戸だ。
2人のいつもとなんら変わりない様子に少しだけほっとした。
「う、うるさいっ」
健人は二人を追いかけるように駆け上る。
「そういえば……黒川は?」
健人が宗太に問いかけると、宗太は屋上へのドアをバンッと勢いよく開けて言い捨てた。
「散々ボコってやったんだ。来るわけねぇだろ。あんな奴の心配なんかしてんじゃねぇよ」
「……うん」
宗太が怒るのはもっともだった。あんな目に合わされて、相手のことを心配するなんてどうかしてる。
でも、やはり、少しだけ気になった。
兄弟がいないと言っていたあの寂しげな表情は嘘じゃなかった気がするからだ。
自分が黒川の兄の様な存在になってあげたいと思ったのもまた事実で、あんな目にあってもまだその気持ちはどこか健人の胸の中でふわふわと漂っている。
「何考えてんだ。ほらこっちこいよ」
「あ、わっ」
宗太の大きな手に手首を掴まれ、ぐいっと屋上へ引っ張られた。
今日も快晴。雲一つないキレイな青空である。
健人に宗太、神戸はいつもの如く定位置に腰を下ろした。
「並木先輩は?」
そわそわと和也を探しているのは神戸だ。
「昼飯買ってきてくれるって……って、ほら来たよ」
健人はドアを指差した。
和也が購買の袋をぶら下げてこっちへ向かって手を上げた。
「よお」
「……なんすか」
和也は宗太の目の前に立ち、パンの入った袋をガサリと地面に置くとブレザーのポケットから丸いプレートを取り出した。
緑の紐がついている。
「和也なにそれ。もしかしてメダル?」
「そうだよ。メダル。わざわざ作ってきたんだ」
和也はそれを宗太に見せ付けるように手にぶら下げた。
「ん?ナイト?」
何か書いてあると思ったら、油性マジックで手書きのナイトと言う文字が。
三人ともポカンとした顔でそれを見詰めた。
「ああ。正式にナイトの称号をコイツに譲ろうとおもってなぁ。俺より明らかにこいつの方が頼りになる」
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