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Lv.33原田宗太
あんなに自分を警戒していた和也が、健人の傍を譲ってくれた。
今までの自分でならば、欲しいのなら強引にでも奪えばいいと、そう思っていたに違いない。
けれどそれが出来なかったのは、健人に恋心を抱いていたからだ。
ただの友達にしては和也から大事にされ過ぎていた健人。
この行き過ぎた友を攻略しないことには先に進めないと踏んだ宗太はらしくない程慎重だった。
それが今、実を結んだのだ。
首に掛けられたシルバーのプレートは、銀の厚紙で作られた子供騙しの代物で宗太の胸で日の光を浴びてキラキラと光る。
「や、妬けるだろ?」
和也が少し困ったような顔で宗太に言った。
確かに妬けなくはないが、健人と和也、友情あってこその今現在だ。
むしろ微笑ましいとさえ思う。
「別に」
宗太はそう言ってにやりと笑う。勝者の余裕みたいなものだ。
「そうだ。筑波先輩」
宗太の呼び掛けに健人が我に返り、少し恥ずかしそうに和也から離れた。
「なに?」
宗太は健人に恒例の牛乳を差し出して言った。
条件反射で健人はそれを受け取るが、宗太の言葉にそのまま身体を硬直させた。
「下の名前で呼んでいい?」
「……」
「返事がねぇならOKってことだよな、健人先輩?」
「別に……、そのくらい、いいですけど」
健人の顔が面白いくらいみるみる赤くなっていく。それを見てにやにやする和也と神戸を健人が睨み付けた。
「なに笑ってんだよ、そこっ」
「いやぁ、可愛いなぁって」
「だからそんな顔で睨まれても怖くねぇって」
神戸はげらげらと笑い出した。
「もう。何なんだよ一体」
ブツブツ言いながら健人が牛乳パックにブスリとストローを差し込んでズズーッと一気に吸い込んだ。
そんな健人に次々と昼飯が手渡される。
「ほら」
和也からタマゴサンドにきな粉の揚げパン。珍しく神戸からもシュークリームが渡された。
「え、何だよみんなして。怖いんだけど」
「いやそこは、ありがとうでしょ先輩!お見舞いっすよ」
「お見舞い?」
宗太はすぐに気付いた。
健人の顔が曇る。掘り起こして欲しくない黒川での出来事を神戸は見舞いと言っているのだ。
「原田ちょっといい?」
健人の手が宗太のブレザーの袖を掴む。宗太は黙って立ち上がった。
健人に引っ張られて給水棟の裏に回る。日陰はかなり冷えていて寒い。
だが健人はそんなこと気にも留めていない様子だ。
「どうした」
宗太が問いかけると健人が言いにくそうに口を開いた。
「……あの時の事、和也と神戸も知ってるのか?」
あの時の事とは、やはり黒川に陥れられた時のことだ。
宗太の手が伸びて健人の頬に触れる。健人はぴくんと肩を震わせた。
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