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第92話
本当は何となくゲーム報酬が何なのか知っている。
だがミレーユには興味を持っていることを知られたくない余り、そっけない返答をしてしまった。
ハランはこのイベントをケントと過ごしたいと思っているからだ。
『報酬は結婚クエストに必要なものよ。指輪の台座か、シルクのベール。あとは幻惑の聖書』
『……いらねーもんばっかりだなw』
『そっかぁ。でもあたしは欲しいなぁ。……ハラン、やっぱりあたしと組もうよ?』
『悪いけど何度誘われても答えはノーだ。他当たってくれ』
ハランはもうケントだけと決めていたから、返事もぶれることなく即答だ。
ミレーユはそんなハランに戸惑いを隠せない。
『なんであたしとじゃダメなの?他に決まったこでもいるの?あたしならハランのジョブを最大限に生かすサポートも出来るし……、 何よりあたしはハランが好き』
はっきりさせないといけない時期なのかもしれない。
wantedの一員としてミレーユの極めた踊り子のジョブはとても魅力的で男性プレイヤー達の志気も高まる。
だが、それとこれは別であり、ここでもしミレーユがギルドを抜けるようなことになったとしても、それはそれで仕方ないとすら思える。
『俺にも決めた相手がいるから』
ハランが正直に言うとミレーユは怒りを露わにした口調で反論した。
『決めた相手って誰なの!?今まであなたに尽くしてきた私には知る権利があるわ。そうでしょ』
ミレーユはプライドが高く気の強い女だ。
穏便にやり過ごすというのは難しいだろう。
だったらもういっその事、正直に言ってしまえば楽になるのではないか。
そう考えて宗太はキーボードを叩いた。
『そうだな。それじゃ教えてやるよ。俺が今一番大事にしてるのはケントだ』
しばらく間があった。理解するまでに時間を要したのか、それとも納得できなかったのか。
両方だろうとも思える。
『ケントって……男じゃなかった?』
『そうだけど』
『意味がわからないんだけど。友達を大事にしたいのはわかるけど、ビジュアル的にも男同士でクリスマスイベントってどうなのw』
『ケントのことは友達以上に思っている。特別だ。はっきり言うと嫁にしたい』
『え。うっそwハラン冗談やめて』
『冗談でも何でもねーよ。俺はケントが好きだから』
『……そんなこと、ギルドメンバーが知ったらあなたリーダー下ろされるわよ』
『なんで?ギルドとは無関係だろ』
『あたしより、そんな男のプレイヤーが好きですなんてwみんな気持ち悪いって言うに決まってる』
やっぱり強気な女だな、と宗太はメッセージを読みながらふっと笑った。
『別に言い触らしてもいいぜ。ギルド活動に支障はないし、ギルドを優先させることはケントだって理解してくれる。それにケントを好きな俺の気持ちは変わらない』
『うそ……。さいてー。ケントって本当は男子高生じゃなくて女子高生なんじゃないの』
チャットはそこで途切れた。
「あーもーめんどくせぇ女だな。リアルの話なんかどうでもいいだろ」
煩わしいことは頭の隅に追いやって、気持ちを切り替えフレンドリストを開く。
今度こそケントのインを確認し、どうやって気を引こうかと思いを巡らせた。
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