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Lv.36ケント
健人は学校から帰るとすぐにパソコンを起動させてlostworldのアイコンをクリックした。
テスト明けのlostworldは健人が最も楽しみにしていたものだ。
だが、どこか上の空でログインする。
頭の中は昼休みの屋上での出来事でいっぱいだ。
lostworldにインするのは日常的なただの作業であり、特にこれといった目的がない日だってある。
この日は丁度そんな惰性的な気分だった。
原田にお尻触られた。中に指を埋められて、キスされながら前を擦られて……。
しかも自分からねだって思いっきり喘いだ。
思い出すとズクっと前が疼いて自然と内股を擦り合わせてしまう。
自分で自分の気持ちが解らない。宗太とどうなりたいのか。自分がどうしたいのか。
─どうしたいんだろ……俺。
ぼーっとしながら前回セーブしたポイントからスタートした。
始まるとすぐにイベント告知のテロップが流れる。
「んー?クリスマスイベントかぁ。もうそんな時期だっけ」
初めてのクリスマスイベントだが具体的に何をするのかわからない。MMOならではの説明書のないイベントゲームは、わからないことそれ自体が楽しいと思えるし、仲間と共にその謎を解明させるのもまた面白い。
そうだ、ハランに聞いてみようかと考えて、ふと思考が固まる。
─そういえば告白されたんだっけ……。
ハランはケントを好きだと言った。今までと同じように冒険しようと言ってくれたが、何となく気まずいではないか。
健人がフレンドリストを開いて確認するとハランはもうインしている。
どう接すればいいのだろう。いつも通り友達として仲良くしてはくれないのだろうか。
ケントはハランにどう接すればいいのか思い悩んだ。
再びフレンドリストに目を走らせる。
「あ!トガー」
ケントの数少ないフレンド、トガーのインを確認した。
今週はテストでずっとプレイしていない。インしてもハランとチャットしただけでトガーとは久し振りだ。
イベントのことを聞きたくてトガーにチャットメッセージを送る。
***************
「トガー!!」
ケントが呼びかけると見慣れたおかっぱボブの青い髪がふわりと揺れて、トガーがケントに振り返る。
「あらケント!久しぶり!」
ケントは気心の知れるトガーにほっとして、トガーの傍まで駆け寄った。
「久し振り!っていうか……あれ?トガーってOLさんじゃなかったっけ?こんな時間にイン? ってごめん。あっちのことを聞くのはルール違反かな」
せっかくみんな楽しみたくてこの世界に身を投じているというのに、わざわざ興を削ぐようなことを聞かなくてもよかったのではと、自分の発言に後悔した。
「ばれたか」
しかしトガーは気にもしない様子ではははと笑った。
「有休っていってね、お給料が出るお休みとったのよ」
「えー。ズル休みだ」
2人は笑いながら顔を見合わせる。
トガーの職業は格闘家だ。今目の前にいるトガーの装備は以前よりグレードアップし、白の格闘技はオレンジ色で帯は黒に変わっていた。
職業それぞれ熟練度が上がればそれに比例して装備も見栄えよく性能のいいものを店で買ったりできるけれど、ついこの間まで一緒に行動していたトガーが急に手の届かない人になってしまったような印象を受けた。
「トガー、装備がかっこよくなってる!」
「そうなの。やっと新しい装備に買い替えたのよ。ありがとう!とうとう念願のLv.20になったわ!これでやっとアンダーグラウンドに行ける」
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