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第94話

「アンダーグラウンド?トガーが?」 「そう!冒険者憧れの地、アンダーグラウンド!」 lostworldの世界ではアンダーグラウンドが本当の物語のスタート地点だ。 ここから本編のシナリオが始まるらしい。ここでのクエストをこなしていくとどんどんストーリーが進み、今まで出会うことの出来なかった多種族の冒険者達と出会い一緒に冒険をすることになる。 だからとにかくゲームシナリオを進める為にはレベルを上げなければならない。 トガーもいよいよその仲間入りを果たすことになるのだ。 正直羨ましい。そして、少し寂しい。 自分からトガーが離れて行く。 そんな気がした。 「いいなぁ。俺おいてかれるんだな」 寂しさでしゅるしゅると気持ちが沈み、同時に肩も下がっていく。 トガーは項垂れる小柄なケントの頭を、子供にでもするように撫でた。 「待っててあげたいけど、ごめんね。実はあたし彼氏出来てさ」 「え?彼氏?」 ケントが口を開けたまま動きを止める。 一緒に冒険をしてきた仲間なだけに、寝耳に水なトガーの告白は、ケントの受けたショックを更に上書きした。 「でね、彼がアンダーグラウンドから先は結構棘の道だから一緒に冒険しようって。だからレベル上げ頑張っちゃった!」 「ほんとに?彼氏なんていつの間に?」 本当にいつの間に?である。 あんなに自分と一緒に冒険していた筈なのに。 一体どこで恋愛していたのだろう。 信じられない。 「ここ一週間くらいでかなぁ?ケントがテストだからってインしてない間にナンパされたの」 トガーは頬をうっすらと赤く染め、髪の毛先を指にくるくると絡ませて、明らかに照れているようだった。 なんとも幸せそうだ。 しかし出会い方がなんだかチャラい。 「ナンパかぁ。でもそんな軽い感じでトガーは付き合えるの?」 「言い寄られて悪い気はしなかったなぁ。最初はただの仲間って感じだったんだけど、彼、レディーファーストな上至れり尽くせりだったから。となると、気持ちは揺らぐわよね。それに教会で結婚式が上げられるって聞いて、せっかくだから色々経験しておきたいなぁって」 結婚式が挙げられるなんて初めて知った。 一瞬自分とハランがお互いタキシード姿で式を挙げる姿を想像し、いや、ないないとその想像を打ち消すように首を振った。 「なんていうか、 おめでとう!これ以外の言葉が見つからないや。ありきたりでごめん。おめでとう」 「ありがとう」 トガーを祝福するケントだったが、今のケントには他人事ではない。 あれからまともに顔を合わせてもいない、話もしていないハランのことを思い出す。 ─俺もハランに付き合ってもいいよって言ったんだよな……。

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