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第95話
「トガー」
「ん?なあに」
「実は俺も、ここでの恋人出来たんだ」
トガーが本当のことを話したのだから、ケントも隠しておくわけにはいかなくなった。
それにトガーならばケントとハランのことを理解してくれるかもしれない。
「えーっ、それこそいつの間に?ケントの恋人って……あ、なんとなくわかっちゃったかも」
「うそ!?なんで」
「だって、ほら」
トガーが突然ケントの肩越しにお辞儀する。
「ん?」
ケントが後ろを振り返ると、ハランが手を振っている。
「ハラン!」
「よ、ケント。トガーさんこんにちは」
「こんにちは」
「邪魔して悪いな」
「邪魔じゃないですよ!」
「ケント借りても?」
「うんうん、いいわよ」
トガーはハランに頷いて、今度はケントに耳打ちした。
「あなた達お似合いよ。お幸せに」
***************
「……っ!」
─なんでバレた!?なんでなんで!?
健人はログを目で追った。
「わ、これかっ」
─ハランはケントにハグをした。
─ハランはケントにキスをした。
と、どさくさに紛れた感じでチャットログ表示されている。
トガーとのチャットに夢中で、文字色の違う行動の表示に気が付かなかった。
「おっ、おいっ、ハラン!」
健人は画面越しにハランに突っ込む。
改めてハランを目の前にして、不覚にもドキドキしてしまった。
すごい奴だと気になっていた高見の存在に告白されれば嫌でも意識してしまうし、告白後の行動力は同じ男として見習いたい程積極的。
すごいの一言しか出てこない。
そしてあまり深く考えずにハランと付き合うことを了承した自分が信じられない。
『ケント』
名前を呼ばれる。
それだけで、その言葉の全てにハランの気持ちが詰まっている気がして妙に胸がざわついた。
『どうしたの』
『ケントに会いたくて来たんだけど』
『そう』
ハランはエストーニア王国の赤い軍服姿でケントの前に立ち、ケントの頭を撫でている。
ウィンディアの街中で他のプレイヤーが行き交う中、この熱烈な好意を示すモーションが炸裂しているのはかなり恥ずかしい。
だめだ、我慢できない。
『ハラン、恥ずかしい』
『ケント』
『なに?』
『……すっげぇ可愛い』
「……っ」
コツッと小さな落下音がして。
健人はふるっと身体を震わせてコントロー ラーを足元に落とした。
「……うそだ。……信じらんない……」
真っ赤になって思わず耳元を押さえた。
耳元で、『可愛い』と囁かれたように健人の耳がハランの空想の声を拾って、こともあろうかその声に感じてしまった。
ぞくっとしたこの感覚は欲情した時のそれに似ている。
「ありえないって……」
健人はしばらく呆然とパソコンを眺めた。
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