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第97話

ケントはマジックエイドパンツをハランの胸にぐいっと押し返す。 本当に受け取らないでいいのだろうか。 なかなか手に入らないこのアイテム、300万ベリーはくだらない取引がされている。 はっきりいって今のケントにはどんなに頑張っても入手困難なのは明らかだ。 ……喜んでくれると思ったのに。 「なんで受け取らない?」 「俺ハランと付き合うって言ったけど、貢いで欲しい訳でも女扱いしてほしい訳でもないよ。今までどおりでいいんだ。欲しい物は自分でお金を作って手に入れたい。その方が面白いだろ」 ケントはにっと笑ってみせる。 どきり、とした。 可愛いから甘やかしたい。何かをしてあげたい。望むものを与えてあげたい。 それだけじゃだめなのか。 ケントを本気で落とすのは相当難しそうだとハランは苦笑する。 そういえばリアルの健人は言い寄ってくる下心満載の男達にも正面から向かう人だったと思い出した。 バカ正直で純粋な健人だからこそケントがそう言うのはわかる気がした。 プレゼントを拒絶されたのは正直少しショックだが、それならばいつかケントが本当に必要とした時に渡せるように自分が保管しておこう。 「わかった。じゃ、ケントにこれ取り置きしておく。それならいいか?」 「ハラン優しいな。 ありがとう!じゃあ俺お金貯めていつかハランから買い取るから格安でそれを売ってくれる」 「わかった。イベント、頑張ろうな」 「うん!」 ケントはハランを真っすぐ見詰める。 ハランは手を伸ばし、愛しいケントの黒髪に指を滑らせた。 クリスマスイベントは今週末からだ。 それが始まるまでに正直なところ少しでもケントにはレベルを上げておいてもらいたい。 「イベント前にアンダーグラウンド行きたくないか?」 「あ!そうそう!俺ガラスの花をアンダーグラウンドの黒魔法屋に届けなくちゃいけないことをすっかり忘れてた」 「ケント、ガラスの花持ってるのか?よく取れたな。あそこは精霊が守っている場所だから簡単に草花を採集できないはずなんだが……。誰かと一緒に行ったのか?」 「そう。ジンと一緒に行ったんだ」 「なるほどな。で、アンダーグラウンドの話だが、通行証がないと入れない。要は自分はこれだけ腕の立つ冒険者です。お役に立ってみせましょうっていう証だな。ってことでもう少しヒーラーとしての腕を磨いてほしい」 「うん。わかった!」 ハランはそこで各々の技術を高めるため、ケントと別れた。 正直ケントのレベルがあまりにも低い為、今回のイベントは非常に不利なものになるだろうと予測できた。 それでもハランはケントと成し得たい。 できるところまでやるつもりでいた。

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