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Lv.38筑波健人
会いたくないけど、会いたい。
この矛盾した甘酸っぱい気持ちは一体何なのだろう。
昼休みが近付くにつれて、そわそわと落ち着かない気分になる。
宗太の耳に通る心地良い声や、自分に触れる繊細そうな細い指、モデルみたいにスッとしていて綺麗に整った顔が自分を見るときは優しげな眼差しに変わって……。
ふと気付くとはっとする。
自分は今何を考えていたのだろうと。
「おい健人。お前気をつけろよ」
「……何が」
「わぁこえー。自覚ないって恐ろしいな」
「だから何」
健人の前の席を陣取って後ろを向いている目の前の和也の言っていることがわからない。
「顔がヤバい」
「は……。つうか、それはいくらなんでも失礼だろ。人の顔見てヤバいとか何?そりゃもともと男っぽくないし気持ち悪い顔してる自覚はあるけどさ。それにしたってもっと言い方ってもんが……」
悲しさと怒り半分、口が尖る。
「いやだから」
「だから何」
「そうじゃなくて、エロい匂い出てるんだって。健人から」
「え、臭い……?」
思わず鼻に袖を寄せ、くんくんと嗅いでみるが、別段いつもと変わらない気がする。
「そうじゃなくって。なんていうの。こうムラムラと押し倒したくなる、みたいな空気が漂ってるっていうか」
「え、嘘だろ。有り得ない」
そんなことあるはずない。
有り得ないと言った健人の顔を見て和也は溜め息をついた。
「まぁせいぜい原田から離れないようにしとけよ」
「なんで原田……」
名前を口にしただけで、胸がどきんと高鳴る。
健人はぎゅっと胸を押さえた。
「もしかして、どこか具合でも悪いのか」
「いや……ちょっと。原田の名前を聞くと動悸が……」
気のせいだろうか。顔も熱い。
「ああ、またそんな顔して。それは完全に恋、だなぁ」
「え」
恋……?これが……?
「ばっ、ばかなこと言うなよ!恋って誰が誰にするんだよ!?この男子校で!?ありえないって!」
「はいはい」
ぷっと和也が笑いながら健人を宥める。
ありえないと思いながらも、日々見慣れた周りの景色や風景が、何だかいつもと違う。
自分自身の宗太に対する気持ちにも変化が生まれてきているのは確かで、健人は戸惑っていた。
昼休みになり、和也がスマホを片手に忙しそうにガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。
「わるい健人!先輩から呼び出しだ。ちょっと行ってくるから、先行ってて」
と言って教室から出て行った。
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