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第100話

和也がいてもいなくても、多分自分は迷いなく宗太のいる屋上に行くだろう。 その証拠に今だって屋上への階段を一段一段踏みしめながら上っている。 ここを上ってあの扉を開けたら─。 ドアノブをカチャリと回して扉を開くと、明るい外の光がきらきらと眩しくて、思わず目を細めた。 その先には太陽光で銀髪を美しく輝かせながら宗太がいつもの場所に座っていた。 「よお。あんた一人かよ」 「和也遅れるみたいだ」 「ふうん」 大して興味無さそうな素っ気ない返事もいいなと思ったり。 ─……あれ、いつもの赤髪がいない。 「神戸は?」 「あいつは呼び出しくらって職員室」 「そうなんだ。何やらかしたんだろな」 「さあな」 ─……てことは、二人きり。 だったら、何しても誰にも見られないんだよな……。 とか、変なことを考えている自分がいて。 「ここ座れよ」 宗太がニヤリと笑いながら、胡座をかいた膝の間を指を差す。 なんでそんなところに?座るわけないだろって頭の片隅で悪態ついてる自分の心とは裏腹に、甘い蜜に吸い寄せられた蝶々みたいにふらふらとそこへ向かっていく。 宗太が驚いた顔をしていた。 当たり前だろう。 自分でも何してるんだと言ってやりたいくらいだ。 宗太の前で膝をつき、胡座をかいた宗太の膝に手をかけてその胸に顔をトンと埋めた。 そこから漂う宗太の香りを吸い込むと一気に心拍数が高くなり、いてもたってもいられなくなってしまった。 「……珍しいな。どうした」 頭から降ってくる宗太の声は優しくて、胸の奥がきゅっと鳴るようなむず痒さを感じ頭を振る。 「わかんない。俺、おかしい」 宗太はくすりと笑い健人の顔を覗き込む。 「……っ」 不意に抱きしめられて。 「可愛い、健人……先輩」 そう囁かれて耳から伝わる宗太の声が身体中を駆け巡り、ぴくんと全身が震えた。 「耳赤いけど。弱ぇの?」 「し、知らな…ぁっ」 耳朶を喰まれ全身に広がったのは紛れもなく身体を疼かせる類のもので。 その時ふと、昨夜の感覚を思い出した。 ハランに「可愛い」とチャットで言われた時のことを。 何だろう……。同じような変な感じ。 顔を上げて宗太の顔を見詰める。 やっぱり不思議と宗太はハランに似ていて格好いい。 ぼうっとそんなことを考えていると顎を掬われ唇を塞がれた。 唇を甘噛みするような食み方で、何度も軽く唇を啄むように合わせ下唇を舐められた。 「……ん」 もっとして欲しい。 なんて─。 そんな事言える筈もなく、照れ隠しで睨み付けるように宗太を見詰める自分がいて嫌になる。 本当に自分の頭はどうかしてしまったらしい。

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