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第101話
「足りねぇ?もっとする?」
そう言いながらするりとこめかみに潜り込む宗太の指にぴくんと身体が反応し、健人が違うと反論する前に屋上の扉が開く音がして、健人は慌ててパッと宗太から離れた。
不自然に飛び退いたのを誰かに見られてしまったかもしれないと心配になる。
「あっれー。お邪魔だったかしら~」
態とらしくオネエ口調で現れたのは和也である。
くねくねと身体を捻り乍ら歩く姿がうっとうしい。
「先輩の呼び出しは終わったのか?」
和也だったことにホッとした反面、焦るあまりいつもより早口になっているのに和也は気付いているだろうかと、健人は内心ヒヤヒヤだ。
「おう。部長も副部長も急用とかで部活後部室の戸締まりを頼まれた」
「そ、そうなんだ」
和也はじーっと健人と宗太を交互に見て、にやりと笑う。
「なーんかやらしいことでもしてたんだろ、お前ら~」
「してないけどっ!」
「キスしてただけだけど」
健人の声に宗太の声が被さる。健人はぐいっと宗太のネクタイを引っ張ると手で宗太の口を塞いだ。
こうも必死に自分でも信じたくない男との色恋沙汰を隠しているのに、こいつは何で開けっ広げに語り堂々としていられるのだろう。
自分の感覚は間違えていないと思う。
…… が、それとも男としての器が小さいからこんなに気になるのか。
とりとめもなくそんなことを考えていたら和也が宗太に向かってとんでもないことを言い出した。
「どうせなら皆の前でコイツは俺のだって宣言する意味でいちゃついてきたら?」
「なっ!なんだよそれ!そんなことするはずないだろっ!」
和也がとんでもないことを言い出すものだから、健人は顔を真っ赤にして首を振る。
それを見つめる宗太の眼差しが普段の宗太からは考えられないほど優しげで、和也が見入った様子で溜息をついた。
「あぁ、本当に俺お役ごめんになってよかった」
「え?」
健人の声を聞かなかった振りをしているのか、和也は座り込むと購買で買ってきた昼食の入った包みをガサガサと開けて食べる準備に取り掛かる。
和也は自分の心が宗太に傾いていることに気付いているだろう。
けれどだからといって和也から偏見の眼差しを向けられたことはないし、むしろ喜んでくれていると感じる。
本当に和也はよい友達だ。
少しして真っ赤な短髪頭が現れて、和也が「げっ」と呟いた。
「並木先輩っ!今日も美人っすね」
「っは?美人とは男に普通言わないだろ?」
「マジでそう思うんだからしょうがねぇじゃん。何食ってんですか。俺にも一口……あ、その齧りかけの部分で……」
「ざっけんなお前!どさくさに紛れて間接キスとか狙ってんじゃねぇだろうな!」
「わかってんじゃん」
少しずつ近付く神戸と距離を取ろうと離れる和也。
やがてそれは追いかけっこに変わってしまい、それがすごく可笑しくて健人は声を立てて笑った。
学校生活が楽しい。男子校の姫と呼ばれても、もう全然怖くない。
そう思えるくらいに強い気持ちでいることが出来る。
それが宗太のおかげだと気付くと同時に、自分は良い仲間に支えられているのだと改めて感じた。
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