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第108話
「諦めるっていう選択肢はないのかよ」
「そんなのあるわけないじゃない!だって今までハランの隣にいたのはあたし!サポートしてきたのもあたし!それをぽっと出のケントなんかに譲れない!!……そんなに諦めて欲しいなら、あたしを納得させてよ。あたしよりケントの何がいいのか教えて」
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「はぁ。マジしつけぇ……」
『……わかったよ。会えばいいんだろ』
キーボードを叩いて宗太は盛大な溜め息を吐いた。
あまりにしつこいミレーユに、宗太が根負けしたのだ。
会ってどうなるものでもないだろうとは思うが、こうなったらミレーユを諦めさせるには現実に自分はこういう人間だと見せつける必要がある。
嫌でも視界に入るミレーユは我が物顔でハランの隣に立っている。端から見ればこの世界での恋人同士に見えるだろう。
だが、可愛らしいと思ったことのあるブラウンの髪も、ミレーユが身に付けると新鮮に目に写った青いチューブトップも、今となっては忌々しい物に見えて仕方ない。
隣に立つことも、チャットすることも煩わしい。
いつからこんな風になってしまったんだろう。
不意に虚無感に襲われる。
lostworldは自分にとって一体何だったのか。
費やした時間や、そこで知り合い繋がった仲間。
それをぶち壊されたかのような感覚が宗太の中を駆け巡る。
─いや、ただの娯楽だ。
そう思えたら楽なのに。そんな風に簡単に割り切れないのは、やはりこの中にケントが、健人がいるからだ。
健人は純粋にこのゲームを楽しんでいる。
そして自分も一緒に健人とlostworldの世界を謳歌したい。
「やっぱりこんなヤツに邪魔されんのは癪に触るな……」
しらけた目で画面の中のミレーユを眺める。
ミレーユがおとなしくなるように仕向ける方法は何かないのか。
「……あ」
宗太の中に一つだけ思い浮かんだそれは……。
『会う気になったのね。嬉しい(*^_^*)どこに住んでるの?あたしは────』
お互いの住んでいる場所を確かめて、無理なく会える所に住んでいるということが判明した。
イベント開始までもう幾日もない。
細かい住所は伏せた上で互いの居住地の間にある駅で休日会うことにした。
もちろんここで住所や名前、電話番号などの個人情報は交換できない。
それをすればlostworldの規約に触れ、退会させられることになる。
だからハランとミレーユが交換したのはお互いの外見とその日身に付ける衣服の色などだった。
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