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第115話

『公園着いたよ!今噴水の前』 それはジンからのメッセージだった。 宗太はスマホの液晶画面を見て、もう一度公園へと視線を巡らせた。 コンクリートの壁を水が伝う。 その噴水の前にいるのは健人と黒いブルゾンを着たマスク姿の男だった。 ─あれがジンか? 健人と談笑しているのは、お互いがオフ会メンバーだとわかっているからなのか? それとも顔見知りか? 宗太は少し混乱していたが、ミレーユと出会さないうちにジンと計画のことについて打ち合わせをしておきたかったので迷っている暇などなかった。 『わかった。今行く』 残りのコーラをズズッと吸って、紙コップをくしゃりと握り締める。 それをダストボックスに入れ、店を出た。 道一本挟んで、集合場所である公園に入る。 噴水の前にいる健人はこっちに気付いて口をはくはくとさせた。 「健人先輩」 「えっ……原田……何でこんなところに」 「……それは、俺がハランだからだよ。先輩」 「え……」 口を開けたまま動きを止めてしまった健人をそのままに、隣の男に視線を向ける。 「あんたジンだよな?」 「……あぁ」 そう言ってマスクの男は少し俯くと、ゆっくりとマスクを外した。 「……は、笑えねー」 今まで生きてきた中で、これ程驚いたことがあっただろうか。 驚きすぎてしばらく次の言葉が出てこなかった。 目の前の男が外したマスクの下から、心底嫌そうな顔をした黒川が現れたからだ。 有り得ない事態に全身の毛がぶぁっと逆立つ。 だがそれは黒川も同様のようだった。 「こっちこそ鳥肌ものだ」 宗太も黒川もまさかの急展開に頭がついていかない。 まさかずっと同じフィールドを冒険していた相手がお互いのリアルでは天敵ともとれる相手であり、しかも健人を巡ってやり合った仲だなんて。 こんなことが現実に起こるなんて信じられない。 「……本当に、原田がハランで黒川がジン?」 健人が細い声で確認する。 驚きの表情は貼り付いたままだ。 「そうみたいですね。……あそこのサーバーはゲーム雑誌に度々取り上げられていてちょっと有名なんです。そのサーバーのプレイヤーから招待コードを貰えば同じサーバーでプレイできるわけだから、別にこんな偶然が起きてもおかしくない……のかな」 黒川が考え込むように言って、宗太の方を向いた。 確かに同じサーバーでプレイすることは可能だ。 だが、同じ学園の生徒同士で今まで何も知らずに冒険していたなんて。 宗太は宗太でこの現実を認めようと頭をフル稼働させる。 黒川は健人に無体を働こうとしたとんでもない奴だ。 ─だが今は健人と笑って話している。 それはつまり健人の中で黒川の存在を許しているということだろう。 そしてここで今、争っている時間はない。これから開かれるオフ会で今目の前にいる健人と黒川はケントとジンだ。 「ジン、本物のケントがここにいるから……あの計画はなかったことにする。ジンはいつもみたいに俺をサポートしてくれないか」 宗太は腹を据えて、この場は一旦ハランとして黒川に接することを決めた。

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