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第116話

黒川は宗太を見て口元を歪めた。 そんな黒川が、気は合うけれど食えない奴だと常々感じていたジンと重なった。 「わかったよ、ハラン。これから僕はここではジンだから、宜しくねケント」 黒川が健人に手を差し出した。 健人は宗太へ助けを求めるように目を向ける。 宗太が仕方なく無言で頷くと、健人はおずおずとそこへ手を伸ばした。 黒川は獣人のジンへ人格を入れ替えたかのように口調から雰囲気までのスイッチをオンにしてチェンジする。 それを健人が呆気に取られた様子で小さく口を開き食い入るように見つめていた。 その視線をこっちへ向けたくて宗太も負けじと健人へ手を伸ばす。 さらさらとした黒髪に手を伸ばしてくしゃりと撫でると健人の視線がパッと宗太へと移った。 「ここでのあんたはケントだ。ケントの恋人は誰?」 「……ハラン」 健人が小さく答える。 何が起きているのかついていけない、と健人の顔に書いてあるようだ。 理解できずに呆けている健人もまた可愛らしい。 「あぁそうだな。宜しくなケント」 健人の小さな顎をクイッと持ち上げて軽く唇を重ねた。 ふわりとした柔らかな唇はリアルじやなくちゃ体感できない。 目の前に健人とケントの両方がいる。 それを実感すると胸がざわついた。 わざと小さなリップ音を立てて、ゆっくりと唇を解放する。 「─っ、原田っ」 どこか定まらない視線を浮かばせていた健人が一気に現実へ引き戻され、後退しながら手の甲で口元を押さえる。 「お、お前っこんな所で……何すんだよっ」 「原田じゃねぇよケント。俺はハランだ。今度間違えたらオフ会メンバー全員が見てる前で濃厚なやつかますからな」 「えっ……濃厚な……なに?」 青ざめる健人を見て思わず笑いが込み上げる。 当て付けられたようにそれを呆れ顔で見ていた黒川だったが、その表情が突然固くなり、それに気付いた宗太は黒川の視線の先へ目をやった。 そこには若い男の集団と、白いコートを着た一人の女がいた。

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