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Lv.44ケント
信じられない面持ちで健人は身を固くしていた。
宗太がキングと呼ばれるプレイヤーのハランで……黒田が屈託なく人好きのするジン?
頭がゴチャゴチャと混乱する最中、目の前に現れた女がミレーユだなんて。
確かにハランは宗太にそっくりだ。
銀色の髪も、長身で長い手足も。
だけど本当にこんなことって……。
全然思考が追い付かない。
その傍ら、ミレーユと思われる女は一歩一歩近付いてくる。
ケントがミレーユによく思われていないのは知っていた。
だから複数の男を取り巻いてこちらにやって来るミレーユに恐怖を覚える。
かちこちに固まった身体を、不意にジンである黒川が抱き寄せた。
「─っ」
「大丈夫だよケント。僕も、それにハランもいるんだ。何も怖くないよ」
「黒川……」
「ここではジンだよ。間違えないでね」
にっこり笑った黒川がジンなのだと思えば、気持ちも少し解れる。
健人は黙って頷いた。
その隣で近寄る集団に神経を尖らせていた宗太はミレーユをじっと見据える。
「あんな女に振り回されてるかと思うと胸糞悪ぃ。派手なブランドなんか身に付けて……笑えるほど似合わねぇな」
「ほんとだね~。どれだけ課金してんのか聞いてみる?」
宗太が鼻でふっと笑うと、黒川がははっと笑う。
その姿はまるで本物のハランとジンのようだ。
そう思うと強張っていた頬が少し緩んだ。
「笑ってる方が可愛い、ケント」
宗太の切れ長の目許が優しく細められて、まるでハランにそう言われているかのように錯覚する。
─……そうか。これからミレーユと対峙する俺達は仲間なんだ。
健人は覚悟を決めてスイッチをケントに切り替えた。
ミレーユと思わしき女は明るいブラウンの髪を緩く巻き、化粧は濃いが顔立ちのハッキリとした気の強そうな顔をしていた。
彼女がミレーユだと言われれば誰しもが納得するだろう。
こちらへと前進するミレーユ達が健人達と少し距離を置いて足を止めると、ミレーユの横にいたシルバーのダウンを着た男が一人こちらへ歩み寄る。
「ミレーユさんのオフ会メンバー?」
その男が口を開いた。
人畜無害そうな顔立ちで口調は軽く柔らかだ。
だが何を企んでいるのかわからない。
だから余計に気味が悪い。
「ああ。俺がハランで、そっちがジン。で、この人がケント」
宗太は表情を変えずに告げる。
すると男はパッと笑顔を見せた。
「マジか。すげーな。本物のキングか。そのイケメン具合がアバターと同じじゃねーか」
「そりゃどうも」
「だはっ!クールなとこもそのまんまー!で……」
男は黒川に目をやった。
「アンタがジン?」
「そうだよ」
「ふぅん。想像とちょっと違う。思ったよりインテリくさいな」
そう言ってハハハと笑う。
黒川は肩を竦めて見せたが、すぐ何かに気付いたようだった。
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