side玲 「……ん」 ゆっくりと目を開ける。 決して柔らかいとは言えないが、どうやら自分はベッドに寝かされていたようだった。 まさか夢だったのだろうか？ いや、ギシギシと軋むようなこの身体の痛みはどう考えても現実(リアル)だ。 (ここ、は……) 薄暗く静かな部屋。 唯一の窓から、外が少し明るくなっているのが見てとれた。 (朝……？) キィ、と後ろから物音がして思わずびくりと身体が震える。 振り返った先にはドアからの光を背に人影が見えた。 「ぁ……れ、いえ……帷さん。目が覚めたんですね」 おはようございます。 気遣ってくれているのだろう、まるで何事もなかったかのような、昨日までと同じ優しい声音。 ホッとしながらもズキズキと心が痛む。 (夢なら、良かったのに……) 「あの、身体の具合はどうですか？」 ドアの所に立ったまま、馨君はバツが悪そうに顔を逸らして言う。 「その、二人に言われて帷さんの身体……綺麗にしたんですが」 痛いとか気持ち悪い所とか、無いですか。 「……うん、お陰様で。ありがとう、馨君」 その言葉に彼は傷付いた表情を見せ、「どうぞ」とサイドテーブルに水を置き、少し離れた場所に背中を向けて座ってしまった。 まるで見えないガラスの壁があるように。 手を伸ばせば触れられるのに、触れない。 (……もうこれ、以上……馨君を巻き込みたくない) 汚したくない、汚しちゃいけない。 (一緒にいたら、きっと馨君まで二人の玩具になってしまう) 自然と伸びかけていた手をぐっと押さえ込んでブランケットを頭から被る。 (情けないなあ……好きな男(ひと)一人……守れないなんて) いや……いっそのこと、会社を辞めて自ら二人の下へ戻ろうか。 またペットに、玩具にされるだろうけれど……それでも馨君を守れるなら構わない。 それに従順にしていれば、彼らは僕の願いを聞いてくれるだろうから。 "馨君には何もしないで欲しい" (気付くの遅すぎだろ……馬鹿) こんなに君が好きだったなんて。 (ごめん、馨君……) 「……っ……」 溢れてくる涙は止められず。 自分のことでいっぱいになっていた僕は、カタンッと音がしたことに気がつかなかった。