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第36話
52階建の◯◯商事のビルは夕焼けを背景に威圧感を増している。
鞄を持ち直し新谷君と並んでエントランスに向かった。受付で取次を済ますとエレベーターで21階を目指す。僕ら以外は誰も乗っていないエレベーターの中で、急に足元がおぼつかない気分に見舞われた。横に立つ新谷君の腕に抱きとめられ、初めて緊張で身体がふらついた事を知った。
「 帷さん、大丈夫ですか?顔が真っ青だ 」
新谷君は僕の身体を片手で支えたまま、覗き込むように顔を近づけた。
この香り……あ、同じ。
僕の身体はしつこいばかりにその香りを記憶していた。
こんな時に! 僕は思わず歯噛みした。
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