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第37話
その香りに反応しないように耐えるのに精一杯で、新谷君に返事を返すこともできない。
「帷さん、やっぱり体調が…?」
どこかで休ませてもらいましょうかと思案し始めた新谷君に、僕ははっとする。冗談じゃない。こんな状態であの「彼」の前に行くわけにはいかない。
「だい、じょうぶだから…」
やっと返事を返し、新谷君から離れようとしたとき、急に訪れた浮遊感で新谷君に再びもたれかかってしまう。覚えのある感覚にエレベーターが目的の階に到着したことを知る。僕を力強く抱きとめてくれている新谷君の腕越しに、僕は電光掲示板の"21"の数字と、機械的に開いていくドアの向こうに誰かが立っているのを確認して血の気が引いてくのだった。
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