50 / 165

第50話

「ほんと意地っ張りだなあ、お前は」 南雲さんは口元に笑みを湛えたまま、僕の腕をぐいっと引っ張る。 体格差からして力で勝てるはずもなく、バランスを失った僕は勢いのまま扉に身体を押し付けられ、彼との間に挟まれてしまった。 両の手首を掴まれ、彼と正面から目が合わせられる。 「……素直になれ帷……いや、玲の方がいいか?」 先ほどまでの営業マンとしての顔はもう微塵もない。 そこにあるのは、捕食者としての、瞳で。 距離が近くなり密着していることで、彼の香りに否が応にも身体が疼く。 (ダメだ……っ反応、しちゃ……) 思わず俯いた僕の手首は一纏めに頭上へと持っていかれ、もう片方の彼の手は視界に入った。 「っ!や、やだ……ッな、ぐもさ……んン!!」 それが狙いだったのだろうか。 拒否のために顔を上げた瞬間、深く口付けられた。 先ほどより深い深い、このまま食われてしまうんじゃないかと思ってしまうほどのそれに、ガクンと力が抜けてしまう。 「っと……」 下へ伸びていた手で腰を支えられ、唇が離れたことでやっと酸素が入ってくる。 相変わらず感じやすいのな、とからかうように笑い。 「圭史さん、だろ?」 こういう時は。 その言葉とともにするりと膝が足の間に侵入する。 「……ッ!!」 「会いたかったんだぞ、玲」 打って変わったその甘い声音にびくりと反応してしまい、せせら笑う彼の唇が耳を食む。 「……圭史、さん……」 思わず漏れ出た言葉に彼は、それはそれは嬉しそうに口元を歪めた。

ともだちにシェアしよう!