58 / 165
第59話
そんな僕の様子を見てふ、と笑みを溢した南雲さんは大きな、先ほどまでとは違う爽やかな声で「新谷君!」と彼を呼ぶ。
こちらに気付いた彼が「帷さん!!」と駆けよってくる。
「……うまく誤魔化せよ?待ち合わせ場所は後で連絡する」
耳元で僕に囁き、新谷君へにっこりと笑みを向けるも、彼はキッと南雲さんを睨む。
「……帷がご迷惑をおかけしました。打ち合わせも済みましたのでこのまま帰らせていただきます」
ぐい、と南雲さんに後ろから腰を支えられていた僕の腕を彼が掴む。
「おや?何か勘違いをしているようだけれど」
「はい?」
「帷とは古くからの付き合いでね、休めば治るというから、休憩室で昔話がてら話を聞いていただけだよ。なあ帷?」
「そうなんですか?」
心配そうに僕の目を見つめてくる彼。
新谷君からは見えない、スーツに隠れされた位置の南雲さんの手が、妖しく蠢いた。
ともだちにシェアしよう!