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第63話

「あ、やっと来たね。玲」 待ちくたびれたよ。 待ち合わせ場所のバーの扉の前に彼が――的場さんがいた。 こっちこっち。 ひらひらと手を振るその姿に、道行く人達が振り返る。 無理もない。 的場さんは世間一般的に見れば、圧倒的に目を引く容姿をしているからだ。 黙ってれば爽やかで優しく見える。 僕だって、最初に彼と出会った頃はそう思ってた。 いや、全ての始まりのあの日まで、そう信じて疑わなかった。 早く行かないと後が怖いので走りよる。 「すみませ、……っ的場さん……」 「んーん、いいよ?夜は長いんだから、ね?」 ぞくり。 南雲さんとは違う、猛禽類のような鋭い視線。 「あの、南雲さんは……?」 「中にいるよ。俺はちゃーんと玲が迷わないで来れるか待ってただけ」 さ、行こっか。 見た目より強い力で腰を抱かれ、扉が開かれる。 カラン、とベルが乾いた音を鳴らした。

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