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第67話
「ッぅ……は、南雲さ……」
唇が離れていき、熱い息を吐いてしまう。
柔らかな、それでいて残忍な笑みを浮かべながら「違うだろう?また忘れたのか」と彼の会社での事を思い出させるように見つめてくる。
どくん。
(ああまた……っ)
身体の、心の、記憶の底に押し込んで蓋をしたはずの。
感情と感覚が呼び起こされてしまう。
「こーら、俺の事も忘れないでよね」
掴まれていた右手をカウンターのテーブルへと押さえ込まれ反対側の手が顎に添えられ、強制的に振り向かされる。
体勢的に苦しいのは勿論、自分の身体を、目の前にいる南雲さんに差し出しているようで。
「んンぅ……っ」
けれど、そんな事お構い無しな的場さんは後ろから唇へと噛みついてくる。
そのまま、蹂躙してくる的場さんの舌に心は抵抗したがっているのに、身体はやはり言うことを聞かず。
「……幸人(ゆきと)」
「っは、なに?」
「ペースが早い」
っは、はと軽く酸欠状態になり的場さんの方へ倒れそうになっていたが、彼の力が緩んだことで、カウンターへと寄りかかる。
ぽん、と南雲さんの手が肩へと置かれる。
「久しぶりの再会なんだ、ゆっくりじっくり楽しみたいよなあ?玲」
「逆でしょ?久しぶりだからこそ、早くあの頃みたいに楽しみたいよね?玲」
ふ、と的場さんは耳元で息を吹き込んでくる。
真逆の事を両側から挟みこみ、問いかけてくる二人。
恐らく……いや確実に、どちらを選んでもどちらも譲る気はないことを僕は知っている。
それは二人と過ごしていた、いや……二人に飼われていた頃から変わっていないだろうから。
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