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第70話
「ぁ……や……ッ的場、さん……っ」
「はは、相変わらず上手ぇな、お前は」
「圭史に褒められてもあんま嬉しくないけど、まあね」
しゅるり。
自分のネクタイを外した的場さんは、それを使って僕の両手首を拘束した。
南雲さんに押さえつけられた僕はカウンターに仰向けのまま、それを受け入れるしかなく。
何をどうやったのか、しっかりと結ばれたそれは固く、全くもって自力でほどけるとは思えなかった。
「俺のも使うか?」
「え、いいの。使う使う」
まるで子供が玩具でももらうかのように、南雲さんのネクタイを嬉々として受け取り、にっこり笑って近付いてくる。
(……っあ、この、笑い方は……)
ずくり。
あの頃の、記憶がまたひとつ、戻ってくる。
『ッぁあ……ッ幸人さ……!!』
幻聴――いや、記憶の再生の方が正しいのか。
『さあ今日はコレも一緒に遊ぼうね』と既に玩具が胎内にあっても、別の玩具で苛められた記憶が蘇る 。
「や、ぁ……おねがい、謝るか、らぁ……っ」
「あれ?まだ何もしてないのにスイッチ入っちゃった?」
「ふは、想像しただけでそれかよ。そんなんじゃ……」
実際始まったらお前、どうなるんだろうな。
向かい合う形になっていた南雲さんの手が、再び太ももに触れ、際どいラインを滑っていく。
時折指先がわざとらしく、丁寧に僕の形をなぞる。
「はは、だいぶ反応してきてんじゃねえか」
「ち、が……ッ」
「何が違うの?」
カウンターの反対側にいた的場さんは、南雲さんのネクタイで僕の目を覆った。
「良いんだよ?そのまま期待してて?」
その声は酷く蠱惑的で、甘いものだった。
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