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第72話

ふわりと、白檀が薫る。 だから一瞬遅れて重なった唇は、的場さんの──幸人さんのものだ。 口の中を貪り尽くすようなキスは、しかしいつも短かったことを思い出す。 キスなんてぬるいことだけで許してくれるような人ではないのだ。 その証拠に、スーツのボタンを外した指がすぐに、ワイシャツの上からきゅっと乳首をつまんでくる。 「…やぁっ……」 「嫌じゃないだろ、こんなに乳首勃てといて。  やっぱり玲は変わってないな」 そう言って、幸人さんは楽しげに笑う。 そうしているうちに、スラックスのベルトがカチャカチャと音を立て始めた。 乳首を弄る指は離れていってないから、それは圭史さんの手だ。 「あー、玲、お前なんでこんな色気ない下着履いてんの?  だめだよ?  ちゃんと、俺たちがあげた下着履かなきゃ」 圭史さんの言葉に、2人から離れた後、全部捨ててしまった下着のことを思い出す。 布地のほとんどない、あるいはありえない位置にスリットがある、あるいは布地ですらない素材でできた、卑猥なそれらを。 「ちゃんと教えたよね?  他の下着は履いちゃ駄目だって」 「あ……。  ごめん…なさい。ごめんなさい……!」 「謝っても駄目だよ。  俺たちの言うことが守れなかったら、おしおき。  玲もそれくらいは覚えてるよね?」 圭史さんの声が、無情に響いた。

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