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第73話

「れーい?」 「ぁ…」 「意識ある?」 パシパシと頬を叩かれて、僕は意識を飛ばしていたことを知る。 一瞬視界が暗いのはなぜだろうと思ったが、すぐに理由を思い出した。 その途端に遠ざかっていた快楽の波が襲う。 「…っ」 「あ、戻った」 頭上で幸人さんの楽しそうな声。 それが聞こえた途端僕は考える間もなく口を開いていた。 「…し、い…」 「んー?」 「欲しい…」 おしおき、そう称して二人は散々僕をせめた。散々焦らされてとっくに限界を迎えている。 でも、 「玲、お前まだ何も飲んでなかったな? 何がいい? 幸人のボトル空けようか?」 「あー、玲にならいいよー。圭史はだめー」 そんな軽口を言い合っている二人は、望むものを与えてはくれない。 意識を失うまでは、流されまいと抗っていた。 今のやり取りもわざとだって分かってる。 だけど… 「玲も好きだよねぇ、散々焦らされた方が辛いって分かってるのに」 好きでこの状況を作っているような言われ方をして、でもそれが否定できない。 実際、以前の自分はそうだったから。今の自分も――? スルリと布が滑り、視界が明るくなる。 「ぁ…」 目隠しを外したのは圭史さんだった。 「圭史、さ…」 「……」 圭史さんは何も言わない。でも、僕がお願いすればいつも望むものをくれた。 「お、ねがい……圭史さ…ん…」 反対側からは幸人さんが「あーぁ」と残念そうに声を漏らした。

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