2 / 14

第2話楓の想い

僕は息を飲み、 一歩を踏み出そうとした。 その瞬間────。 「アラン!」 アラン────僕の名前。 だけど、その声はあの人の ものではない。 分かっている。 来るはずがない────。 「アラン────」 僕は一歩下がり、 声の主をゆっくり見た。 振り向いた瞬間、 僕の腕を自分の方へ 強く引き寄せられた。 抱きしめたのは、 日本に来て出逢った、 あの人の親友────(かえで) 「…………楓」 僅かに楓の名を呼ぶ。 僕は知っている。 楓が僕をずっと見ている事。 その気持ちが愛情である事も。 でも、僕は楓の気持ちに応えらない。 出来るならどんなに楽だろう。 どんなに幸せだろう────。 何度も想い、そうなるように 願った。でも────、 僕には出来なかった。 愛せなかった。 「アランっ逝くなよ────、 俺じゃ駄目?愛せとは言わない! 側にいてくれるだけでいい。 他には何もいらない────だから」 「…………………………」 純粋で真っ直ぐな瞳。 胸がキリッと痛む。 そんな風に見られたら 何も応えらないよ────。 僕はズルイ────。 あの人が僕を見なかったように、 僕も楓の気持ちを踏みにじってる。 分かっているのにどうしようもない。 「…………なら今夜だけ! 今夜だけ俺の物になって! それ以上は望まない────、 だからお願い…………」 涙声で僕を抱きしめる腕は とても温かい。 最後────最後なら、 「────分かった。 今夜だけ────なら」 僕の答えに楓はもう一度 僕を強く強く抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!