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第45話
マンションへ帰って早々、荷物の整理を始めた。
元々、実家から移してきた物がごく少量
だったので、意外に早くカタはついた。
後はこのまとめた荷物を宅急便の集配係に
託すだけだ。
柊二から買ってもらった服やアクセは
全て置いていく。
中でも、かなり置いていくのが辛かったのは、
1周年記念にプレゼントしてもらった、リング。
大晦日にもらって以来、
ずっと肌身離さず首から
ぶら下げていたんだ。
柊二からまた連絡が入ると、
泣いてしまいそうで怖かったのでスマホの電源は
切ろうとしたら、
あつしから着信が入った。
今近くまで来てるから寄ってもいいか?
というので、俺も色々今後の事を話さなければと、
OKした。
数十分後 ――
「差し入れだぜ~」
部屋へ入って来たあつしが高々と掲げた小袋は
浅草の有名和菓子店「舟和」のもの。
「あー! もしかして、芋ようかん?」
「あったりー」
「サンキュ、あつし」
俺ら2人共男のくせに、甘い物には目がなくて、
特にこの「舟和の芋ようかん」は
大のお気に入りだ。
濃い目のほうじ茶をすすりながら、
大好きな和スイーツを食べ至福のひと時。
「―― 派遣要請の話し、今日正式に引き受けた。
で、もう、ここにはいられないから、現地へ行くまで
住めるとこ和志さんに世話してもらえないかなって」
「おぉ、聞いてはみるけど、どうせだから出発するまで
ここに置いてもらえばいいじゃん」
「もし、和志さんに心当たりがなくても、明日には
ここを出る」
「……柊二と何かあったのか?」
当然の質問だ。
あつしをここへ呼んだ時から、
全てを打ち明ける覚悟は出来ている。
俺は、自分が迫田との一件から柊二さんと急接近し
やがてこうして同棲するようになって、
いま、どういう問題に直面しているかを
かい摘んであつしに説明した。
「……笑っちゃうよな……軽蔑、するか?」
「バーカ、今さら何だよ……実はさ、柊二の縁談は
母ちゃん伝いでかなり前から知ってた。だから、
柊二がこんなでかい買いもんした時はマジびっくり
したよ、で、各務の家でひと悶着起きるって
確信したね」
「そっかぁ……あつしにも心配かけたね、ごめん」
「いいってことよ~、あ、そうそう、
新しい寝床だったな」
あつしは早速和志さんに連絡を取り、
手頃な間に合わせ物件を探してくれるよう
頼んで通話を終えた。
「何かさ、もう、和菓子とお茶だけじゃ物足らなくね?」
「ふふ、そろそろそう言う頃だと思った」
俺は裕兄の新しい恋人・周防さんに頂いた
越後の銘酒「細雪」を持ってきた。
「おぉ! さすが倫ちゃん、気が利くねぇ」
早速、2つのコップに注いで乾杯した。
「アメリカに行っちまうと、こんな風には飲めなく
なるんだよなぁ~……」
染み滲みと呟いたあつしの言葉が、
胸にジ~ンと響いた。
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