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第46話

  柊二は例のカミングアウトが原因で、   実家に軟禁されてしまったようだ……。   俺は今日3時に匡煌さんとの約束がある。   病院での勤務は2時で早退。   ロッカールームから出て、   通用口へ向かっている途中   あつしが追いついてきた。 「部屋の事だけど、山谷にあるシェアハウスでも  良かったら今すぐ手配出来るってよ」 「雨風しのげれば十分だよ。そこでお願いします」 「OK、じゃ、叔父さんの方からハウスへ連絡しといて  もらうな。現地へはそうだなぁ……*時頃に行くって  事でいいか?」 「うん。……あつし? ホントに色々ありがとう」 「いいってことよ~、困った時は助け合いだろ~。あ、  そうそう、お前新聞まだ見てないだろ」   と、あつしが差し出してきた、   新聞の小さな記事を見て、   俺は思わず固まった。 「! そんな……」   株式会社・各務製薬   本日付けをもって下記の者を懲戒解雇処分とする。   役員・各務 柊二     これは明らかに柊二のカミングアウトに対する   匡煌さんの制裁だと思った。 「大丈夫。柊二はこの程度でメゲる男じゃねぇよ」 「だといいけど……とにかく、これから匡煌さんに  会ってくる」 「おぅ、行って来い。報告待ってるぞ」  ***  ***  ***   ㈱各務製薬は神田小川町に建つ瀟洒な   **階建てビル。   その威風堂々とした風格のある外観に   圧倒されつつ   俺は玄関ホールへと足を踏み入れた。   1階の総合受付で自分の名前を告げ、   3時から各務社長と約束がある旨を告げると   エレベーターで最上階までどうぞと指示され、   向かった**階で待つこと数分……   昨日電話で話した秘書の高田さんがやって来た。 「お待たせ致しました、高田と申します」 「桐沢です」 「社長がお待ちです、こちらへどうぞ」   フロアー最奥の部屋のドアを高田さんが   ノックした。 「桐沢様をお連れ致しました」 「どうぞ」   目線の先、各務匡煌が重厚な執務机に座っていた。 「やぁ、久しぶりだね、どうぞ」 「失礼致します」   2人で応接セットのソファーへ移動。   向かい合わせに座ると高田さんがお茶を   出してから、出て行った。 「驚いたよ。キミから連絡が来るなんてね」 「部屋のカギをお返しに参りました」   俺はテーブルへマンションのカードキーを   置いた。 「出て行くのか?」 「はい」 「そうか」 「……新聞を見ました、人事異動の」 「あぁ、あのバカが両親へ好きな男がいるなんて  いきなりカミングアウトしたもんだから、  ショックのあまりお袋が卒倒して、親父は怒り狂って  柊二を殴りつけ、臨時役員会の満場一致で  懲戒解雇処分になった。その後すぐあいつは実家に  軟禁されたよ」 「そう、ですか……」   俺はひざ上に置いた手を握り直し、   ゆっくり息をついて切り出した。 「お願いがあります」 「何かな?」 「柊二さんの処分を取り消して下さい」 「キミにも分かるだろうが、既に決定し公表してしまった  処分を覆すにはそれなりの理由が必要だ。  会社の信用問題にも関わるからな」 「分かります」 「……仮にだ、私がキミの願いを聞き入れるとしたら、  キミは私に何を差し出す?」 「今後一切、柊二さんには会いません。  マンションを出るのもその為です。  携帯電話も番号を変え、彼からの連絡にも  一切応じません」 「それをどう、私に信じろと?」 「*月には日本を離れます。少なくとも2年は  帰国しない予定です」 「……分かった、会長とも相談して、前向きに検討して  みよう」 「ありがとうございます。では、これで失礼します」   立ち上がり、一礼して戸口へ向かうと、   先に外からドアが開いて、静流先輩が現れた。 「倫君……今、あつしから連絡もらったの」   先輩の顔は心なしか青ざめて見えた。   あつしから大方の事情を聞いたのだろう。 「そう……って事だから、日本を発つ前に1度集まって  食事でもしましょうね。また、連絡します、じゃ」   先輩にも一礼して廊下へ出た。 『りんっ!』 「追うな」 「どうして?!   あなた一体あの子に何を言ったの??」 「他愛無い世間話しさ」 「ふざけないでっ」   匡煌は廊下に控える高田に言いつける、 「高田」 「はい」 「彼が来た事は柊二には一切言うな。役員達に招集を  かけてくれ。集まり次第、役員会を開く」 「畏まりました」   何時になく厳しい面持ちの婚約者を見て不安になり、   静流は恐る恐る訊ねる。 「……何をする気?」 「予定通り柊二は香さんと結婚させる、それだけだ」 「きっと柊二は最後の最後まで足掻くわ」 「それでも動き出してしまった歯車は、もう誰にも  止められないんだ」 「……」    

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