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第47話
和志さんが手配してくれた部屋は
シェアハウスと言っても
従来の雑居型の物ではなく。
集合玄関・LDK・バストイレ・ランドリー、等の
共有スペースもあるけど、
個人の居室にもワンルームマンションの設備がある
タイプの物だった。
最寄り駅にも商店街にも近いし、
ここなら出発まで快適に過ごせそうだと思った。
それに何より、俺が注目したのは、
入居者の約8割が留学生でその気になれば
共有LDKで生きた英語が学べるって事だ。
今朝、マンションから宅急便で送った荷物は
国枝家経由で部屋へ届けられていた。
あつしと俺は、近所のコンビニで弁当と酒の肴を買い、
部屋で酒盛りを始めた。
「……けどよ~、柊二は大人しく引き下がるかねぇ~」
「結婚すれば……時が経てば、俺の事なんかきっと
忘れる」
「話しを聞いた限りじゃ、かなりお前に入れ込んでる
みたいじゃん?」
「……」
「本当のところ、お前はどう思ってたん?
柊二に惚れてなかったのか?」
「……遊びだって、割り切れてたら、どんなに良かった
かって思えるくらい、好きだった」
しばらく間をおいて、あつしが呟いた。
「……胸、貸してやってもいいぜ」
「あ? 何しに?」
「お前、泣きそうな顔してるから」
「!!……」
「ガキの頃から人一倍泣き虫のくせして、
こんな時だけやせ我慢すんじゃねぇよ」
「……」
これまで必死にひた隠し、
押さえ込んでいた感情が
あつしの「やせ我慢するな」のひと言で、
一気に溢れ出た。
あつしは号泣する俺を、ガキの頃みたいに
ガシっと力強く抱き止めてくれた。
*** *** ***
その頃、㈱各務では匡煌の緊急招集で開かれた
役員会も無事(?)終わり、
静まり返った会議室に、憮然とした表情の匡煌と
もぬけの殻のようになった柊二だけが残っていた。
「……あんな決定、オレは承諾しない」
「これは彼 ―― 桐沢くんの希望でもある」
「嘘だっ!」
「今日、会社へ来てお前の処分を取り消してくれと
言われた」
「ふんっ ―― 兄貴は他人から言われただけで素直に
応じるようなタマじゃないだろ」
「……マンションから出て行く事、そして今後一切
お前とは接触しないという提示をされ、私は
その条件を呑んだ」
「!!……」
「携帯電話の番号も変えるそうだ。……私の所へ来た
彼は手の色が変わる程ギュッと手を握りしめ、
体も震えてた」
「倫……」
「本気にお前の事を思った末での決断だと思った、
だからお前も彼の事はすっぱり忘れろ。……
彼の誠意を踏みにじるな」
「……オレの気持ちは完全無視かよ」
ショックで呆然とする柊二に
「仕事に打ち込め」とひと言残し
匡煌は出て行った。
柊二は震える手でタバコに火を点ける。
取り出したスマホで倫太朗の番号へかけてみるが、
”お掛けになった電話番号は
現在使われておりません”
と、無機質なテープの声が聞こえてきた。
あいつが、オレの前からいなくなる?
姿を消した? ―― 嘘だっ!
倫太朗は”待ってるから、早く帰れ”と
言ってくれた。
あいつがオレに嘘などつくハズがない。
きっとこれは何かの間違い……
そう、悪い夢だ。
いつものように帰れば、
倫太朗は笑顔で迎えてくれる。
柊二はタバコをもみ消し立ち上がると、
小走りでエレベーターへ向かった。
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