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第48話

  これからデートだというあつしを見送って、   部屋へ戻った俺はベランダへ出た。   都会の街は周りのビルや家々から漏れる電気で   結構深夜まで明るい。   それに加えこのシェアハウスの建物は高台に   建っているので、かなり遠くまで見渡す事が出来た。   見える訳はないのに ――   思わずマンションの方向へ目を向けた。   2度と会わないって決めたのは自分。   だから今は、まだ同じこの町に一緒にいられるって   事だけで良しとしよう。   これから俺は、もっと強くならなきゃダメなんだ。   もし、何年か後、   彼と偶然何処かで再会しても、笑顔で話しが出来る   ように……。   俺は強くなる。   ―― コン コン 「は~い?」   開いたドアから顔を見せたのは、   向かいに住むアフリカ系アメリカンのジェフ。 「ハ~イ倫ちゃん、おじゃまですかぁ?」 「ううん、そんな事ないよー、どうぞ入って」   と、言うと「では、おじゃまします~」と   ジェフを筆頭にこのハウスの住人さん達が   ゾロゾロと入って来た。   皆、手に酒と肴、それにスナック菓子を   持っている。   どうやらこれから、   夜通しの飲み会になりそうだ。  ***  ***  ***   倫太朗はオレを待っていてくれる、   そう信じていた。   スピード全開でマンションへ急行し、   パーキングへ車を停める。   エレベーターを降り、部屋のドアにカードキーを   認識させようとするが、   元々この作業は苦手で手間取り、   認識したピーッという電子音と同時に   ドアを蹴破る勢いで開け、室内へ。 「倫っ!   名前を叫びながら各室を探し回る。   あいつの私室にとあてがった一室 ――   至る所に積み重なっていた医学書の類は   綺麗さっぱり消えてなくなり。   クローゼットのオレが買った服とアクセ等は   そのまま残されていた。   そして、とどめは、テーブルの上に   メモと一緒に置かれていたプラチナのリング。    ”柊二、嘘ついてごめんなさい。     あなたは自分の道を奥様と歩いて下さい”   何が奥様だよ……   オレのパートナーは倫太朗、お前だけなのにっ。   オレはリングを握りしめ、その場にへたり込んだ。 「倫? オレを1人置いて行っちまったのか?   本当にもう帰って来ないのか?……  お願いだから、嘘だと言ってくれ、倫……」   本当のお袋が死んだ時以来、初めて泣いた。   世間体なんて下らないもん、   とうの昔に捨てていた、   各務とも縁を切る覚悟でいたのに……っ。 「戻って来い、倫太朗……愛してる」 ***  ***  ***   今日、ひと足先に大吾先生がNYへ旅立った。   次は俺の番だ。   辞令告知から出発まであまり時間に余   裕がなかった為、   大吾先生の送別会は開けなかった。   けど、大吾先生は出発当日の今日、   慌ただしい時間をやりくりして   皆んなへしばしの別れを告げて行った。   そして今日は、出産休暇で長らく休職しておられた   田代先生が職場復帰した。   院長は田代先生の代替で勤務していた柊二にも   勤務の続投を打診していたが、   今日正式に各務家から辞退の返答があったそうだ。   そして各務では近日中にも匡煌さんが   お父上の跡を継ぎ正式に社長就任、   柊二は本社の新薬開発業務に就くそう。   俺は遅くとも5月中には出発出来るよう   本格的に動き出した。   より一層、仕事に精を出し。   大吾先生のやり残して行った事務処理にも追われ、   ビジネス英会話教室へ通ったりと、   言葉通り目まぐるしい日々を過ごしている。   教室でのグループレッスンの後、   個人レッスンも終わり、   先生から勧められた英語小説の原書を買う為、   本屋へ向かっているとあつしから電話が入った。 『おぅ、これから何か予定ある?』 「本屋に行って、後は帰る」 『じゃ、神田神社(神田明神)の酔桜祭り行こうぜ。  本屋は何処さ?』 「神保町の三省堂」 『なら、明神さま近いじゃん。  俺もこれからすぐ出るから、  終わったら電話して』 「分かった」   通話を切り、駅に向かう。   本当は、各務の本社もあるので文京エリアには   長居したくなかった。   先生に勧められた本は三省堂オリジナル本で   そこで買うしかない。   店は駅に近いし、万が一、偶然会う事があっても   逃げ道はたくさんある。   と、気持ちを切り替え、電車に乗った。

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