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第50話

「―― う~ん、まいったなぁ~……」   賑わう通りをキョロキョロ見回す倫太朗は、   眉をひそめて呟いた。   あつしや途中から合流した都村と歩いていたのだが   ふと耳に入った泣き声に足を止めた。   人の流れに逆らうようにして泣き声に向かう。   そこには浴衣を着た小さな女の子が   母親とはぐれたのか?   心細げに泣いていた。 「ほら、俺も一緒にお母さん探すから、  もう泣いちゃだめだ」   どうしたもんだか……と、考えあぐね。   とりあえず、この祭りを主催している実行委員会の   本部へ向かった。   そこには救護センターと迷子センターも設けられて   いるのだ。   女の子はそこへ到着した数十分後、   無事両親と再会した。      が、今度は倫太朗があつしと都村を   見失ってしまった。   この人混みの中ではそう簡単に2人を   見つけられそうにない。   こういう時、頼りになるハズのスマホは   この祭りに着いてすぐ、   バッテリーが切れてしまった。   自分自身に呆れて、   乾いた笑いしか出てこない。   ココに、じっとしていても埒があかない。   きっとあつし達も自分を探してくれているだろうと   倫太朗は来た時に潜った大鳥居まで戻って   2人を待つ事にした。   そこで待つ事数分……   ド~ンと、大きな音がして花火が打ち上がった。   この祭りに来ているほとんどが   花火目当てなのだろう、   誰もが足を止め夜空を見上げている。   すぐに二発目・三発目と夜空に大輪の花が咲き、   男ばっかだけどあつし達と見られてたらもっと   楽しかっただろうなぁと思った。   そして、1ヶ月前、   柊二ともこの花火を見に行こうと   約束していた事も、不意に思い出した。 「柊二……」 「―― 呼んだか?」 「えっ?!」   すぐ隣から聞こえてきた懐かしい声に   驚いて隣を見る。   四発~五発と次々に打ち上げられる   花火の明かりに照らされ、   浮かび上がる柊二の顔。   柊二はまた逃げ出される前に倫太朗の腕を   掴んだ。 「離して」 「嫌だ、離したら倫はまた逃げる」 「もう、あなたには会わないって決めたんだ」 「お前が勝手に決めた事、オレには関係ない」   柊二は倫太朗の腕を掴んだまま、   人気のない場所を探す。   しかし、こんな祭りの夜に、   人気のない場所なんかあるハズもなく。   結局柊二は自分の車へ向かった。 ***  ***  ***   柊二は逸る気持ちを必死に抑え俺に   「少し話さないか?」と、問いかけてきた。       話してしまったら……怖かった。    全てを投げ出してしまいそうで……   けど、俺は強くなると決めたんだ。   柊二としっかり話せる自分になると   決めていたことを思い出す。   俺は促されるまま助手席に乗った。   「どこに行きたい?」と聞かれ   「海が見たい」と答えた。   何故そういったのかは分からなかったが、   きっと初めてのデートが海だったからなんだろう   埠頭について外に出ると、   2人でタバコを吸い始めた。     柊二が「全て自分が悪い」と言った時、   自分の中に罪悪感を感じた。   俺だって悪いんだ。   そして、俺は柊二に嘘ばかりついている。   気がついたら、   柊二が真剣な表情で「名前を呼んでくれ」と、   俺の目を真っ直ぐ見ていた。   呼んでしまったら最後……   戻れなくなるような気がして   俺は声を出せなくなった。   そんな俺の身体を強く抱きしめた柊二の体が   震えている。   「呼んでくれ」と俺を強く抱きしめる。   呼んだら……後戻りできない……。   後戻り出来なくても、良い?   このまま……2人で、ずっと一緒に居ても……   許されるのか?   俺は出ない声を振り絞って「しゅうじ」と   つぶやいた。   彼が「柊二だ」と更に強く抱きしめる。   泣かないと決めたのに ――    涙が溢れて止まらない。   『柊二』と言い終わる前に、   柊二が俺にキスをしてきた。   押さえ込んでた感情が一気に、全身に溢れ出す。   柊二に抱きついて自分からもキスをする。   もう、どうなっても良かった。   どんなに責められようと、批判されようと、   柊二と一緒に居たい……   この男と……これからの人生を歩いていきたい

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