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パートナー 邂逅編 最終話

※ 親友・国枝あつしに背中を押されて、   柊二の見舞いに訪れる倫太朗。   夜中の病室で2人きりになった柊二と倫太朗は……。    回診・検温・食事・入浴……等、   入院生活での時間は淡々と過ぎてゆく。   あっという間に感じる時もあれば、   大抵は時間と暇を持て余す。      そのうち読めればと、   買っておいたベストセラー小説を   5冊も読破してしまったし。   内科のように体の内部疾患で入院中の   患者とは違い、   大抵が外傷だけの外科入院病棟の患者は、   傷が快方に向かってくると入院中のくせに   元気一杯で、   柊二はそんな暇人達とも結構仲良くなった。   でも、一番の驚きは ――   生活のリズムが規則的になって、時間になると   自然に眠くなり。   翌日の起床時間まで1度も途中で目を覚ます事なく   ぐっすり熟睡出来るようになった事。   時間は間もなく午後9時。   平常時の生活をしている時はこんな時間に   床へ就くなんて、   倫とHする時以外考えられなかったが、   入院生活の夜は早い。   そろそろ、準夜勤の看護師が巡回にやって来る。   頃合い良く、柊二も目がショボついてきたので   読みかけのビジネス書をサイドテーブルへ置いて、   ヘッドレストのスタンドへ手を伸ばしかけたその時。   誰かがこの病室のドアノブを静かに回す気配がした。   柊二はスタンドへ伸ばしかけた手を元に戻し、   とっさに寝たふりをキメこんだ。   何故そんな事をしたのか?   自分でも良く分からない。   ただ、何となくそうしなきゃいけないような   気持ちに駆られたんだ。   その訪問者は何故かドアを開ける事自体を迷っている   ように思えた。   なら、どうしてこの病室の前まで来たのか?   柊二にしてみりゃ謎だ。   訪問者はなかなか入って来ようとしない。   カチ カチ カチ カチ ――――   静かな病室内に時を刻む時計の音だけが響く。   数分後……開いたドアから、意を決したように   入って来た訪問者は ――。   倫太朗だった。   (嘘だろっ ―― やっべぇ……    オレ、めっちゃ嬉しい)   しかし、何で今になって自分の所へ?   ”逃がした魚は大きい” と今になって   やっと気が付いた、とか?   アハハハ ―― そりゃないわな……。   柊二がそんな想いで寝たふりをしたまま悶々と   していると、倫太朗はまだ幾分迷いがあるような   足取りで。   ゆっくり柊二の横になってるベッド脇へやって来た。   もしかしたら、   これが2人きりになれる最後のチャンス?   一瞬、こんな考えが柊二の頭に過ぎった。   それが気持ちを余計に急かせて、   柊二は今すぐにでも倫太朗を力いっぱい抱きしめたい   衝動と必死に戦った。   時には2~3歩下がって状況を冷静に見極める事も   必要。   今回の一連の騒動で得られた貴重な教訓。   倫太朗に気付かれないよう薄目を開け   倫太朗の様子を伺う。   倫太朗は今にも泣き出してしまいそうな   情けない表情でベッド脇に佇み、   柊二をじっと見つめている。   ―― 倫? 今でこそ、お前の本当の気持ちが   知りたい。   それから倫太朗は、そうっと柊二の顔に触れ、   優しく頬を撫でて 手を握り頬ずり…… 「……ごめんね、柊二……」   違う! オレが聞きたいのはそんな詫びの言葉   なんかじゃない。   倫っ ――!   必死に堪えていたのに、目尻に滲んだ涙が   無情にも、大きな雫となって頬へ流れた。   それを見た倫太朗の表情に動揺が走る。 「しゅじぃ……」      柊二は倫太朗に握られてる手を自分からも   握り返してゆっくり瞼を開いた。 「ハ~イ、泣き虫」   倫太朗は泣き笑い、戯けてプクーっと頬を膨らます。 「柊二だって同じじゃん」 「そっか、そうだな……」 「……柊二、あのね、ボク、えっと……」   それまで必死に持ちこたえていた理性も、   愛おしい人との久しぶりの逢瀬の前には   非常に脆く。   柊二は必死に言葉を紡ごうとしている倫太朗の   愛らしさに負け、倫太朗を力ずくで組み敷き、   強引にその唇を奪った。 「んっ、ちょっ、しゅ ―― だめ、ここ、びょい  ……んン……」   倫太朗の抵抗は始めの数秒だけ。      柊二が倫太朗の首筋に真っ赤な所有印を   散らした頃にはその身を素直に委ね、   柊二の肩口へ腕を回して口付けを強請ってきた。   触れ合った2人の肌から伝わる心臓の鼓動。   時間の経過と共に早鐘を打つ。 「会い、たかった……ずっと、ずっと、会いたかった……  大好き柊二……愛してる」 「そうやってオレをノセたって、褒美は何もやれない」 「……柊二で、いいのに?」 「……あ?」   倫太朗が柊二の耳元で囁いた。 「――」 「!! おま ――っ……ア、ホ……」 「どうしたの?」   オレのキュウリがズッキーニに……   トン トン ―― ドアを静かにノックする音。   看護師の巡回だ。   柊二はとっさに倫太朗を布団で隠した。   ガチャ ―― ドアが開いて、顔を出したのは、   今年で6年目だという中堅ナース・石川。 「各務さん、何もお変わりありませんねー?」 「あぁ、ないよ。ありがと」   (しいて言えば、股間が緊急事態だが) 「それでは、お休みなさい」 「あぁ、おやすみぃ」   と、いつものやり取りで何事もなく終わる   ハズだったが ――   ふと、視線を落とした石川が柊二のスリッパの近くへ   乱雑に脱ぎ捨てられたようになっている倫太朗の   デッキシューズへ目を留めた。   うわっ、マズい……   石川はそのシューズも柊二のスリッパの横へ綺麗に   並べると、澄ました表情で言った。 「今夜が師長の夜勤じゃなくて良かったですね~。でも、  センセ? これ、ひとつ貸しですよ」 「……」   デカい貸しを造ってしまった……   石川が出て行ったのを確認し、倫太朗が布団から   顔を出す。 「バレちゃったね」 「おぉ、でもこれで明日の朝まで2人きりだ」        緊張でカサついた倫太朗の唇を自分のソレで塞ぐ。   薄っすら開きかけた唇の間から舌を滑り込ませ――   クチュ クチュ ――   この静かな室内に2人の何度も唇を啄み合う   リップ音だけが淫美に響く……。   掛け布団・お互いの服・もちろん下着も ――   邪魔な物は全部取っ払って。   美味しそうにぷくっと勃ってる倫太朗の胸の頂を   口いっぱいに頬張る。

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