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小学校の高学年時に月のものが始まった。
何も知らなかった式。
それは両親にも言えた。
一家はたちまち混乱に陥った。
病院で孕み筋だと診断を受け、あまりにも突然の出来事を受け止めきれずに、式の親は然る新興団体へ駆け込んだ……。
「…………式、すまないな」
昼休みだった。
いつもならば教室で一人食事をとっていた式が今日は珍しくカフェテリアにいた。
隣に座っていた阿羅々木に詫びられて首を左右に振れば、斜め向かいに座っていた隹が「阿羅々木、俺の保護者ぶるんじゃねぇ」とすかさず文句を飛ばしてきた。
自分達と昼食を共にするよう隹が式を強引に引っ張ってきたのだ。
「式が食べてるサンドイッチおいしそう、どこで買ったの?」
「これは俺が自分で作った。食べるか?」
「食べたーい!」
「繭亡、さっき食ったばかりのマフィンが胃から逆流しそうだ、妹のコレ、何とかしてくれよ」
「なによッこのク、ッ……そ……育ちが悪いわね、隹ったら、ねぇお兄様?」
「セラ、すごいぞ、いつの間にそんな敬語を覚えたんだ」
高校卒業後、式は、面識のない男と結ばれることになっている。
両親が崇拝している人物からあてがわれたツガイの相手だという。
その男であれば奇跡を育むことができると。
その人物の後継者に相応しいと……。
「俺にもくれ」
己に巻きついた鎖を思い出して息苦しさに密かに心を引き攣らせていた式は我に返った。
食べかけのサンドイッチを持っていた手を掴まれ、いきなり引き寄せられたかと思えば、隹にかぶりつかれて。
手に持っていた部分だけが小さく残された。
「ちょっと、隹、サイテー」
「…………式の昼食がなくなったぞ」
「一口分は残ってる、それで十分だろう、式?」
セラと阿羅々木は隹を批判し、繭亡はお上品に口元を拭きながら問いかける、式は残っている一口分を一先ず食べようとした。が。
「それもくれ」
今度は手ごとかぶりつかれた。
「ちょっと。式まで食べないでくれる、隹」
「…………面倒みきれん、隹」
「困った奴だ、隹」
隹の幼馴染みで彼の素行を嫌というほど知っている彼らは肩を竦めた程度、利き手を食べられかけた式だけが一人ワナワナしていた。
式お手製のサンドイッチを平らげた隹は「うまかった」と平然と感想をのたまった。
……それは俺の指のことなのか?
一瞬、そんな考えが脳裏を掠め、呆れ返る余り、式は笑った。
「本当に何も考えてない動物みたいだ」
羨ましい、隹。
俺も何も考えないで生きてみたい。
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