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『高校の三年間だけ自由にさせて下さい』
式は両親にそれだけを願った。
親元を離れ、一人で、自由に生きてみたかった。
限定的に許された三年間。
我が身に巻きついた鎖を解くことはできないが、勉強に励み、好きな本を読み、一人暮らしのワンルームは毎日掃除し、ごはんを作って、家事をこなして。
最後の一年間。
これまでの二年間通り、静かに、ゆっくり生きていこうと思った。
ただ一つ式は自分に強いていることがあった。
いずれ完全に自由をなくす身で、誰かを、好きにならないこと。
苦しいだけだ。
傷つくだけだ。
相手にも同じダメージを与えることになる。
だから。
俺は誰も好きにならない…………。
「式」
「だから、そこにいられると他の人の邪魔に、」
文句を言おうとした式の目の前にすっと差し出された一冊の本。
「借りマス」
アンデルセンの絵本だった。
「……返却日は一週間後です」
「どーも」
本を借りた隹はすぐにカウンターから離れて行った。
無意識に彼の背中を見送り、我に返り、慌てて式は視線を逸らした。
今日はあっさりしていたな……。
……いや、何も考えるな、考えなくていい、式。
自分にそう言い聞かせて、カウンターでしばし雑用に励み、返却された本を戻すため式は図書館の奥へ向かう。
本当に自由だったのだろうか。
一冊一冊、丁寧に本を戻しながら、式は思った。
鎖に繋がれたこの身が一度でも自由になったことはあっただろうか。
父、母、あの団体、団体の長が用意した見ず知らずの男。
彼らが手綱をとっている限り自由になんか……。
式の切れ長な双眸にゆっくりと涙が滲んだ。
人生を諦めたはずだった。
逃げ場などないと、ただただ苦しい運命に服従したつもりだった。
それでも、どうしても、恋い焦がれてしまう。
一年後の、それから先の、限りない世界を。
「……」
ため息も出ないほどの絶望が喉に詰まった式は棚と棚の狭間で立ち竦んだ。
「サボり図書委員、発見」
途方に暮れた彼に届いた声。
小脇に絵本を抱えた隹が不敵に笑って立っていた。
鎖も、絶望も、忘れて。
式は隹を見た。
滑らかな頬を伝い落ちていく涙。
「隹」
『奇跡の同級生だな』
出会った瞬間から恐れていたんだ。
あなたを好きになってしまうこと。
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