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降り注ぐ西日に際立つ漆黒のシルエットを前にして式は凍りついていた。
まだ校門も抜けていない学園内で彼らと遭遇し、息が止まりそうな心地に視界がぐらりと歪む。
不穏な動悸を刻む心臓。
図書館で隹と過ごしたひと時に抱いた希望が脆くも崩れ去る。
どうしてこんなタイミングで?
まさか監視されていた?
じゃあ、やっぱり。
自由な時間なんか一度だって。
鎖に雁字搦めにされたこの体で、自由が欲しいなんて、幻想に過ぎなかったんだ。
地上を旅立っていく世界中の死者への弔いの意味を込めて始終喪に服している彼ら。
式の両親も信者となっている団体の使者三人は凍りつく式の元へ笑顔で歩み寄ろうと。
「式」
心まで凍りつきかけていた式は瞬きした。
左手をきつく握りしめられて、隣にいた隹を見上げた。
「走るぞ」
隹は即座に彼らが誰であるのか察した。
価値観がまるで違う彼らとの会話など速やかに放棄し、明らかに怯えている式の手をとって、力を込めた。
「す、い」
そのまま走り出す。
監視下におかれていた式のよからぬ兆候を見出して接触してきた彼らは、その元凶である隹をもちろん放置するはずもなく、すかさず後を追おうと。
「学内関係者以外の人間が勝手に敷地内に入らないで頂きたい」
眼帯の繭亡が毅然とした態度でまず立ち塞がった。
「…………」
その隣に無言で並ぶ阿羅々木、堂々と真正面から彼らを睨めつけているセラ。
裏門から学外へ出た隹は式を連れて西日の中を走り続ける。
ずっと彼に手を引かれている式はその後ろ姿に胸の内で告げた。
ありがとう、隹。
短い間、あのひと時だけ。
俺は自由になれたような気がする。
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