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「……隹、今……何時だ……?」
「もうすぐ十一時だ」
「っ……もう、そんな……?」
目覚めた式の乱れていた髪を梳いて直してやる隹。
テレビも時計もない部屋。
街に広がるノイズが子守唄さながらに流れ込んでくる。
「お前、あの時、ツガイって言ったんだよな」
指通りのいい髪の感触に指先を愉悦させて、隹は、見る間に頬を紅潮させた式に続けた。
「俺とお前で一つ、か」
「……勝手なこと言ってすまない」
「ツガイらしく、俺とお前で、こども、つくるか」
「……」
「家族をなくしたなら。俺とお前でつくればいい」
「……隹」
「なんだ」
「……その場の思いつきで軽々しく言わないでくれ」
顔を背けて眉根を寄せた式の頬に隹は両手を添えた。
「言っただろ。必要不可欠だって」
俺のものにするって。
「………………」
式は恐る恐る、再び隹へ視線を寄せた。
「知らねぇ誰かの種を植えつけられる前に。イブを蔑み続けるアダム主義の差別集団に神聖視されてるこの胎を穢せばいいだけの話だろ」
制服越しに腹部に掌をあてがわれた。
少しの揺らぎもないその不敵な眼差しを一身に浴びた式は、また、あの甘い戦慄に肌身を蝕まれていく。
「……穢すとか、そんなひどいこと言わないでくれ……それに、まだ高校生だし、いきなり言われても……先が見えなさ過ぎて、」
「じゃあ、あいつ等に分捕られるつもりか」
そんなことさせるか、誰が許すか、一人ずつ殺してやる。
「隹」
「お前の運命が決まったのはついこの間だ、式」
四月の朝、あの教室で。
「俺に見つかったあの瞬間から、もう俺のものなんだよ、お前」
隹にキスされた式。
甘い戦慄の迷宮に完全に囚われた。
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