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隹川達が訪れた場所はナイトクラブだった。
ハロウィンである今夜はいつもより早くオープンし、トワイライトマスカレードと題してコスプレした客は入場料無料、おかげで大賑わいだった。
「か、帰りたいよぉ、音でかすぎぃ」
ホラー映画・スクリームの殺人鬼仮面をつけられた宇野原は重低音を効かせてホールにガンガン鳴り渡る大音量ハードコアチューンに早速弱音を吐く。
「宇野原、何か言った? つぅかどこいんの?」
馬の被り物をすっぽりかぶった北は自分にしがみついている宇野原を狭い視界のため見失っている。
「ごめん、二人とも、僕のせいだ」
黒のネコミミつきキャットマスクをつけた式部が申し訳なさそうに謝れば。
「え!? なんて言ったの、式部!?」
「式部、どこいんの?」
顔の上半分だけ繊細な総レース仕立てのマスクで覆われている式部は、二人同時に聞き返されて、さらに申し訳なくなった。
初めてのクラブ訪問に戸惑っている中学生らを隹川は平然と鼻で笑う。
「園児のお遊戯会かよ」
前方に設置されたDJブース、真後ろのスクリーンで目まぐるしく切り替わる意味不明な映像群。
思い思いの仮装で多くの客が熱狂しているダンスフロアと柵で区切られた壁際のソファ席ゾーン。
「隹川、それは?」
獅音がいそいそと持ってきたタンブラーグラスを背もたれに踏ん反り返った隹川が受け取るのを見、式部は聞かずにはいられなかった。
「お酒なのか?」
「式部、興味あるの? 飲む? 私のラム・コーク飲んでみる?」
「やめないか、セラ」
ファントム兄の繭亡 がナース妹のセラを嗜めている中、ホッケーマスクを斜め上にずらした隹川は、ミントが浮かぶ見た目も味も爽やかなモヒートを式部の方へ差し出した。
「まぁ、いわゆる酒、だな」
「お酒は駄目だ、隹川、僕達はまだ未成年なのに」
「式部かわいいっっ」
「みんな、お酒を飲んでいるのか?」
「テメェ風紀委員のつもりか、俺の兄貴がやることにいちいち文句抜かすな!」
「お酒はよくない、隹川」
「じゃあお前が代わりに全部飲めよ」
視覚やら聴覚が半分麻痺して状況が把握できずにきょろきょろしている友達二人を傍らに、式部は、グラスを差し出し続ける隹川に唇をきゅっと噛んだ。
飲みたくない、飲めるわけがない。
それをわかってて、隹川は、意地悪してる。
困り果てる式部を我が物顔で眺めていた隹川だったが。
「あ」
隹川の手からグラスが奪い取られて式部は切れ長な双眸を見張らせた。
奪い取ったのはそれまで会話に一切入ってこなかった、全身黒ずくめの阿羅々木 だった。
黒マスクを下にずらすとグラスを大胆に傾ける。
喉を緩やかに波打たせて喉越し爽快な酒を一気に飲んでしまう。
「未成年なのに飲み干して悪かったな」
「……」
「阿羅々木すごーーーい!」
「やっぱタッパある分ピッチも早いとか!?」
「セラも、獅音も、真似するんじゃないぞ、全く」
阿羅々木は空になったグラスを閉口している式部に渡し、セラと獅音は盛り上がり、繭亡は眉を顰めて火の点った煙草をくゆらせた。
再び背もたれに背中を預けた隹川は、次の酒を頼むでもなく、紫煙に霞むマスカレードの熱狂を一瞥した。
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