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「さっきはありがとう」
一先ず隹川の飲酒を食い止め、他の者達に関しては止む無く見過ごした式部、隣に座る阿羅々木に礼を述べた。
「獅音、まだ兄離れしてないの? きも!」
「うっせぇ、セラだって繭亡とべったりじゃねぇか、ブラコンが!」
「お前に一番言われたくねーんだよ!!」
「やめないか、セラ」
どえらく親しげな彼らを余所に依然として寡黙な阿羅々木に話しかける。
「さっき、阿羅々木がああしてくれたことが、一番場が白けない治め方だったと思う」
「……」
「でもお酒はよくない」
また黒マスクで口元を隠した阿羅々木は声を立てずに小さく笑った。
「お腹減ったんでしょ? ピザ食べさせてあげる!」
「えっ、なにこれ、あちちっ、あちちちちっ」
「ど、どした、北、大丈夫かーー!?」
「俺に聞くんじゃねー!! 俺は獅音だ!!」
早熟な高校生にからかわれている宇野原と北の向こう側、一人離れ、別のグループと話している隹川を式部はちらりと窺った。
「隹川と友達なのか?」
とてもじゃないが高校生に見えない、露出度の高いバニーガールのコスプレをしたセクシー女子らに集られている殺人鬼。
「幼馴染みだ」
シュンとなりかけていた式部は答えてくれた阿羅々木に視線を戻した。
「幼稚園、小学校、一緒だ。後はバラバラだがな」
「……隹川って、昔からああなのか?」
「アイツは、昔から、ああだ」
「……」
「苦労するぞ」
「阿羅々木は苦労したのか?」
式部に真面目に聞き返されて阿羅々木はまた小さく笑う。
校則に忠実な制服姿でキャットマスクをつけた優等生は小首を傾げた。
「隹川にとって俺達とお前の関係は別物だろう」
「え……」
「アイツにとって特別なんだろう、式部は」
レーザー照明が忙しなく行き交うホールの片隅で式部は密やかに赤面した。
「……隹川から何か聞いたのか?」
「聞いてない。見ていてわかる」
隹川にとって僕は特別なんだろうか。
大体、ひどくされてばかりで、好き勝手にされて、一方的で、こっちの気持ちは置き去りにされているから。
本当にオモチャとして扱われているみたいだって何回も悲しくなった。
それに、呼び出されて会ったときは、ほとんど……そういうことばっかりで。
向こうが飽きるまで無理やり続けられて。
嫌だって言っても止めてくれない。
……やっぱりどれだけ思い出してみても特別感よりオモチャ感が勝ってる気がする……。
「やっぱり苦労してるみたいだな」
阿羅々木に頭を撫でられて式部は忙しげに瞬きした。
カラスマスクの下で彼が笑っていることにやっと気がついて、さり気なく自分に救いの手を差し伸べてくれた黒ずくめの高校生に笑い返そうとした。
「えらくよさげな雰囲気だな」
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